目次
はじめに
今回はSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)についてもう少し掘り下げてみます。
SAFについては、2025年2月3日に「国内におけるSAFの最新動向と展望」という記事で、SAFの定義、政策動向、航空会社の取り組みを中心にご紹介しました。
SAFについて強い関心を持たれている方が多いようですので、本記事では、さらに一歩踏み込み、SAFの原料や製造プロセスの詳細に加え、「廃油の偽装問題」について掘り下げて解説します。
世界的に脱炭素化の必要性が高まる中で、航空業界におけるSAFの果たす役割は極めて大きなものとなっています。しかし、その信頼性を支えるサプライチェーンの透明性や認証制度には、まだ多くの課題が残されています。
SAFの主な原料と製造技術
SAFには、さまざまな原料と製造プロセスがあります。以下に主要な原料分類と代表的技術をまとめます。
廃食用油(Used Cooking Oil:UCO)
主に飲食店等での使用済みの植物油をいいます。
現在SAF原料としてもっとも広く活用されており、HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)法で精製されます。
HEFA製法については、以下の図をご参考下さい。
(引用元: SAFの6種類の製造方法を化学式で説明|SAFメーカー約30社|バイオナフサ)
供給元の確認やトレーサビリティが十分でない場合、不正の温床になりやすいため、厳格な認証管理が求められています。
動物性脂肪
食肉加工の副産物として生じる脂肪分です。
UCOと同様にHEFA法で利用され、特に欧米では一定の利用実績があります。
ただし、原料の回収や品質均一性に課題があるといわれており、安定供給が求められます。
廃棄物系バイオマス(Municipal Solid Waste)
ごみ処理で得られる有機性廃棄物を熱分解して合成ガスを生成し、FT(Fischer-Tropsch)合成法で燃料化します。
FT法については以下の図をご参考下さい。
(引用元: SAFの6種類の製造方法を化学式で説明|SAFメーカー約30社|バイオナフサ)
アメリカや英国では商用化の動きが進んでおり、特に都市部の廃棄物を有効活用できる点が注目されています。
セルロース系バイオマス
木材や農業残渣など非可食性の植物資源が原料になります。
ガス化や糖化を経た後にATJ(Alcohol-to-Jet)法などで燃料化されます。
ATJ法については以下の図をご参考下さい。
(引用元: SAFの6種類の製造方法を化学式で説明|SAFメーカー約30社|バイオナフサ)
農業の副産物を活用できるという点でポテンシャルは高いものの、商用化にはコスト面と技術面の壁が残っています。
Power-to-Liquid(PtL)技術
再エネ由来の電力を用いて水を電気分解し、得られたグリーン水素と回収したCO2から合成燃料を製造する技術です。
PtL技術については以下の図をご参考下さい。
(引用元: SAFの6種類の製造方法を化学式で説明|SAFメーカー約30社|バイオナフサ)
ドイツやノルウェーではパイロットプラントの稼働が進んでおり、将来的には完全に化石資源に依存しない航空燃料の供給が期待されています。
廃油の偽装問題とその影響
近年、欧州を中心にSAFの原料として広く使われている廃食用油(UCO)に関して、不正行為があるのではないか、との報道があります。
2024年9月、The Gurdianはこの点について言及しています。
「Out of 1,500 global climate policies, only 63 have really worked. That’s where green spin has got us」
こうした偽装の背景として、SAF原料の価格高騰を挙げることができます。
SAF原料が高騰しているため、廃油ではなく、新しいパーム油などをSAF原料と称して使用する、という不正が行われていることが指摘されています。
このような偽装行為は、CO2削減効果の根拠を損なうだけでなく、ESG投資家や航空会社の信頼性にも深刻な打撃を与えかねません。
特にSAFが国際的なカーボンクレジットと紐づいている場合、不正が生じた際の影響は市場全体に波及する可能性があります。
SAFサプライチェーンにおけるトレーサビリティの課題と対策
こうした偽装問題に対抗するには、原料のトレーサビリティ確保が不可欠です。欧州ではISCC(International Sustainability and Carbon Certification)などの認証制度が導入されており、原料の出所から製造、流通、使用に至るまでの履歴管理が求められます(ISCC公式サイト)。
また、近年ではブロックチェーン技術を用いて、サプライチェーン上の取引記録を不正に改ざんできない形で残す試みも進められています。
例えば、Shell AviationがAccentureおよびAmex GBTと共同で開発した「Avelia」プラットフォームは、ブロックチェーン技術を活用したデジタルブックアンドクレームソリューションであり、SAFの環境属性を追跡・検証することが可能です。
このプラットフォームは、SAFの供給拡大と航空業界の脱炭素化を支援することを目的としています。
「Avelia, the blockchain-powered book and claim solution for scaling SAF demand」
まとめ
日本でも政府主導でSAFの供給量拡大と認証強化が進められており、経済産業省は2030年までに供給量を年間30万キロリットルとする目標を掲げています。
「2030年における持続可能な航空燃料(SAF)の供給目標量の在り方」(経済産業省、2024年9月)
企業としては、原料の選定において信頼性の高いサプライヤーと契約し、ISCCなどの認証取得状況を確認することが重要になってくると考えられます。
また、SAFに対する適切なモニタリング体制を社内に構築することも求められます。
SAFは航空業界の脱炭素を支える重要な鍵であると同時に、そのサプライチェーンの透明性が信頼性を担保する要となります。
今後、政府や企業、投資家、利用者が協働して、不正のない持続可能な航空燃料市場を育てていくことが求められます。
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