✅ ざっくり言うと
🌪️ プロペラなしで振動だけで発電する「ブレードレス風力発電」が注目されている
⚖️ 日本では電気事業法等の既存法規制が適用されるが、新技術ゆえの解釈論点も存在
📝 まだ実用化前だが、将来の商業化に向けた契約上の論点を先取り整理する意義がある
📈 市場は2037年まで年率約9%成長予測、実証実験から商業化への移行期にある
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はじめに
今回は風力発電に関する新しい技術について説明していきます。
風力発電といえば、広大な土地に立ち並ぶ巨大な白いプロペラを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、現在、その常識を覆す「羽根のない風力発電機」が世界的に注目を集めています。
この技術は「ブレードレス風力発電」「渦励振風力発電」「振動共鳴式風力発電」など様々な呼称で紹介されていますが、いずれも風を受けて構造物が振動することで発電するという画期的な仕組みです。
騒音が少なく、都市部にも設置可能で、野鳥への影響も少ないことから、次世代の分散型エネルギー源として期待されています。
ただし、この技術は現時点ではまだ実証実験段階にあり、商業化には至っていません。スペインのVortex Bladeless社は当初2020年の販売を予定していましたが現在も実証中であり、日本のチャレナジー社も2024-2025年に実証実験を進めている段階です。
それでも、市場予測では2024年の約706億ドルから2037年には2,322億ドルへと急成長が見込まれており、商業化は時間の問題と考えられます。弁護士としては、実用化前の段階から法的な論点を整理しておくことに意義があると考えています。
今回は、ブレードレス風力発電の技術的な仕組みを概観したうえで、日本における法的フレームワークと、将来の商業化を見据えた契約上の検討事項について解説していきます。
ブレードレス風力発電とは何か
従来型風力発電との違い
従来の風力発電機は、風がブレード(羽根)に当たることで揚力を生み出し、その回転運動を発電機に伝えて電気を生み出す仕組みです。
水平軸型(プロペラ型)と垂直軸型(ダリウス型など)が代表的ですが、いずれも「回転」を動力源としています。
これに対し、ブレードレス風力発電は回転ではなく「振動」をエネルギー源とする点が根本的に異なります。
円筒状やポール状の構造物が風を受けて振動し、その振動エネルギーを内部の発電機(リニアオルタネーター)で電気に変換します。
この違いにより、以下のような特徴が生まれます。
- 騒音の大幅な削減:高速回転するブレードがないため、騒音は20Hz未満とほぼ無音レベル
- メンテナンスコストの低減:可動部品が接触しない構造のため摩耗が少なく、設備寿命が32~96年と試算されている
- バードストライクの回避:野鳥が衝突する危険性がほぼない
- 製造コストの削減:ナセル(発電機収納部)やブレードが不要で、従来型の約53%のコストで製造可能と概算されている
ただし、発電効率は従来型の約30~40%程度とされており、この効率差が商業化における課題の一つとなっています。
振動で発電する仕組み(渦励振現象)
ブレードレス風力発電の核心技術は、渦励振(Vortex Induced Vibration、VIV)と呼ばれる物理現象です。
風が円筒状の構造物を通過する際、構造物の背後に交互に渦が発生します(カルマン渦列)。この渦の発生周波数が構造物の固有振動数(共振周波数)に近づくと、構造物は大きく振動し始めます。これが渦励振現象です。
建築の世界では、この現象は避けるべきリスクとして知られています。
1940年にアメリカ・ワシントン州のタコマナロー橋が風による渦励振で共振し、わずか4ヶ月で崩壊した事例は有名です。高層ビルや橋梁の設計では、この共振を避けるための対策が必須とされています。
ブレードレス風力発電は、この「避けるべき現象」を逆手に取り、意図的に共振を引き起こして発電に利用するという逆転の発想から生まれました。
具体的な発電メカニズムは以下の通りです。
- 風が円筒構造に当たり、渦が発生
- 渦の周波数と構造物の共振周波数が一致すると、構造物が大きく振動
- 構造物内部のコイルと磁石が相対的に動き、電磁誘導により発電
- 磁石は「チューニングシステム」としても機能し、風速に応じて見かけ上の弾性定数を変化させることで、幅広い風速範囲で振動を維持
この仕組みにより、風速3m/s程度の微風から発電が可能となり、都市部に日常的に吹く風でも十分なエネルギーを取り出せると考えられています。
主要な開発企業と開発状況
現在、ブレードレス風力発電の開発を主導しているのは、スペインのVortex Bladeless社です。同社は2012年にデビッド・ヤニェス氏とラウル・マーティン氏により設立され、6つの特許を保有しています。
Vortex Bladeless社は現在、3つのモデルを開発中です。
- Vortex Nano:高さ1m、出力3W。ソーラーパネルとの併用を想定した小型モデル
- Vortex Tacoma:高さ2.75m、出力100W。住宅や農地での自家発電用
- Vortex Atlantis/Grand:高さ9~13m、出力1kW前後。工場や商業施設向けの大型モデル(プロトタイプ段階)
同社は当初2020年後半に約200ユーロ(約25,000円)での販売を予定していましたが、実用化は遅れており、現在も100基の商業化前デバイスについて製品試験を実施している段階です。
日本では、株式会社チャレナジーが「垂直軸型マグナス式風力発電機」を開発しています。
厳密にはブレードレスの渦励振方式とは異なり、回転する円筒が生み出すマグナス力を利用する方式ですが、「羽根のない風力発電」という点では共通しています。
チャレナジーは台風にも耐えられる設計を特徴とし、2024年に福島県南相馬市で小型実証機を設置、2025年には実寸大実証機の稼働を目指しています。
また、2025年9月にはマクニカと事業提携を発表し、市街地への普及加速を図っています。
このように、世界的に見ても「実証実験から商業化への移行期」にある技術といえます。
日本における法的フレームワーク
電気事業法の適用関係
ブレードレス風力発電機も、電気を発生させる設備である以上、電気事業法の規制対象となります。
同法第38条および第39条に基づき、事業用電気工作物には技術基準への適合が求められ、「発電用風力設備に関する技術基準を定める省令」(平成9年通商産業省令第53号)が適用されます。
この省令は「風力を原動力として電気を発生するために施設する電気工作物」に適用されるため、回転式であるか振動式であるかを問わず、ブレードレス風力発電にも適用されると解されます。
また、出力規模に応じて以下の規制が適用されます。
- 20kW以上の風力発電設備:事業用電気工作物として届出が必要
- 50kW以上の設備:電気主任技術者の選任義務
- 一定規模以上の設備:定期安全管理検査の実施義務(平成29年4月施行)
ブレードレス風力発電の現行モデルは出力が数W~1kW程度と小規模であるため、多くの場合は一般用電気工作物または小規模事業用電気工作物として扱われると考えられます。
ただし、今後大型化が進めば、より厳格な規制対象となる可能性があります。
技術基準と認証制度
電気事業法に基づく技術基準は、主に回転式風力発電を前提として策定されています。
そのため、振動式という新たな方式については、以下の点で解釈論が生じる可能性があると考えられます。
(1)構造強度基準の適用
省令では、風車の支持物やブレードの強度基準が詳細に規定されていますが、ブレードレス風力発電には「ブレード」が存在しません。
この場合、振動する円筒部分を「風力を受ける主要部分」として読み替え、同等の強度基準を適用することが妥当と考えられます。
(2)過速度保護装置の要否
回転式風力発電では、強風時の過回転を防ぐため、過速度保護装置の設置が求められています。
ブレードレス風力発電では回転がないため、代わりに「過振動保護装置」として、振動が限界値を超えた場合に自動的に動作を停止する安全装置の設置が求められる可能性があります。
実際、Vortex Bladeless社の設計では、風速30~35m/sを超えると自動停止する機構が組み込まれています。
(3)認証・検査の実務
日本では、風力発電設備の型式認証や使用前自己確認制度が整備されていますが、これらは従来型の回転式風力発電を念頭に置いた制度です。
ブレードレス風力発電の導入にあたっては、既存の認証機関や検査機関との事前協議により、どのような試験項目・基準で適合性を判断するかを明確にしておく必要があると考えられます。
商業化前の現段階では、実証実験における安全性確認の方法論についても、規制当局との対話が重要になると思われます。
環境規制(騒音・景観等)
風力発電の導入において、法的にも実務的にも大きな課題となるのが騒音問題です。
従来型の風力発電では、ブレードが高速回転する際の空力音や、ギアボックスからの機械音が問題となり、環境省の「風力発電施設から発生する騒音等への対応について」(平成28年)などのガイドラインに基づく対応が求められています。
これに対し、ブレードレス風力発電は騒音レベルが20Hz未満と極めて低く、騒音規制の観点からは大きなアドバンテージがあると考えられます。
都市部や住宅地での設置も、騒音面での障壁が低いため、より柔軟な立地選定が可能になると思われます。
また、景観への影響についても、巨大なプロペラがないため、従来型と比較して地域住民の受容性が高い可能性があります。
ただし、景観法や地域の景観条例による規制は個別に確認する必要があります。
実証実験段階においても、近隣住民への説明や環境影響の測定は重要な法的プロセスとなると考えられます。
従来型風力発電規制との比較
以上をまとめると、ブレードレス風力発電と従来型風力発電の法的取扱いは、基本的には同一の枠組み(電気事業法等)に服しつつも、以下の点で実務上の違いが生じると考えられます。
| 項目 | 従来型風力発電 | ブレードレス風力発電 |
|---|---|---|
| 基本法令 | 電気事業法(同一) | 電気事業法(同一) |
| 技術基準 | 回転式を前提とした詳細規定 | 解釈適用が必要な部分あり |
| 騒音規制 | 厳格な対応が必要 | 規制クリアが比較的容易 |
| 環境アセスメント | 一定規模以上で必要 | 同様に必要だが、影響は小さい可能性 |
| 認証実務 | 確立された手続き | 事前協議が重要 |
| 現在の開発段階 | 商業運転中 | 実証実験段階 |
商業化に向けた契約上の検討事項
本章では、ブレードレス風力発電が将来商業化された際に問題となるであろう契約上の論点を、先取りして整理します。
実際にはまだ商業契約が締結されていない段階ですが、弁護士としては、実用化前から法的課題を予測し準備しておくことに意義があると考えています。
実証実験段階における契約の特殊性
現在の開発段階では、まず実証実験契約が締結されることになります。これは通常の売買契約や導入契約とは性質が異なり、以下のような特徴があると考えられます。
(1)研究開発要素の強さ
実証実験は「製品の販売」ではなく「技術の検証」が主目的です。
そのため、契約の性質としては、売買契約というより共同研究開発契約に近い要素を持つと思われます。
(2)データ取得と知的財産権
実証実験から得られるデータ(発電量、風況、振動パターン、耐久性等)は、製造者にとって極めて重要な技術情報です。
一方、設置者(実験協力者)にとっても、自社の敷地における環境データとして価値があります。
このデータの帰属、利用範囲、第三者への開示可否などについて、契約上明確にしておく必要があると考えられます。
(3)費用負担とインセンティブ
実証実験に協力する設置者に対して、どのようなインセンティブを提供するかも論点です。
無償での設置、電気代相当の補償、将来の商業製品の優先購入権など、様々な形態が考えられます。
将来の商業化を見据えた性能保証の設計
商業化された際には、性能保証条項が契約の中核となると予想されます。
しかし、新技術であるため、従来型風力発電の性能保証とは異なる配慮が必要になるでしょう。
(1)発電量保証の困難性
ブレードレス風力発電は、特定の風速範囲で最も効率的に発電しますが、実際の設置場所の風況は予測が困難です。
従来型以上に、「年間平均風速○m/sの条件下で」という前提条件の設定が重要になると考えられます。
また、長期の実績データがない段階では、製造者側も確実な性能保証を行うことが難しいため、「ベストエフォート」条項や、保証値の段階的な引き上げ(初年度は控えめ、3年目以降は本格保証等)といった工夫が必要になる可能性があります。
(2)比較対象の設定
「従来型風力発電と比較して○%の性能」という相対的な保証方式も考えられますが、設置場所や条件によって比較が困難な場合もあります。
絶対値での保証(年間○kWh)と相対値での保証(従来型の○%)を組み合わせることが現実的かもしれません。
(3)保証期間と段階的評価
初期の商業製品では、短期(1~2年)の性能評価期間を設け、その結果に基づいて長期保証の内容を確定するという段階的アプローチも検討に値すると思われます。
新技術特有のリスク配分
新技術の導入においては、予期しないリスクが顕在化する可能性が高いといえます。
契約上、以下のようなリスク配分を明確にしておくことが重要と考えられます。
(1)技術的欠陥の発覚リスク
商業化後に、設計上の欠陥や材料の不具合が発見される可能性があります。この場合、製造者側に修正義務を課すのか、買主側にも一定のリスクを負担させるのか、契約で明確にする必要があります。
特に初期ロット(最初の○台)については、リスクを認識した上での導入として、特別な条項を設けることも考えられます。
(2)法規制変更リスク
第2章で述べたとおり、ブレードレス風力発電に対する法規制は未確定な部分があります。
将来的に新たな技術基準が策定されたり、追加の認証が求められたりする可能性があります。
その場合の対応費用(改造費用、認証取得費用等)を誰が負担するかについて、あらかじめ合意しておくことが望ましいと考えられます。
(3)長期耐久性の不確実性
設備寿命が32~96年と試算されていますが、これはあくまで理論値であり、実証データに基づくものではありません。
実際には予想より早く劣化する可能性もあります。
保証期間終了後の性能低下や故障について、どこまで製造者側が責任を負うのか(有償修理か、無償交換か等)、明確にしておく必要があるでしょう。
保守・メンテナンス契約の論点
ブレードレス風力発電は「メンテナンスフリー」とされることもありますが、実際には定期点検や部品交換は必要と考えられます。メンテナンス契約では、以下の点が論点になると予想されます。
(1)メンテナンス内容の確定
従来型風力発電のような「ブレード点検」「ギアボックスのオイル交換」は不要ですが、代わりにどのような点検が必要なのかは、実証実験を通じて明らかになっていくと思われます。
契約締結時点では、「製造者が推奨する点検項目」という形で柔軟性を持たせつつ、点検頻度と費用の上限は定めておくことが現実的でしょう。
(2)予備部品の供給責任
新技術であるため、交換部品の供給体制が十分でない可能性があります。
重要部品については、製造者側に一定数の在庫確保義務を課したり、供給不能時の代替措置(代替機の無償貸与等)を定めたりすることが考えられます。
(3)遠隔監視とデータ活用
IoT技術を活用した遠隔監視システムが導入される可能性が高いと思われます。
その場合、収集されるデータの取扱い(プライバシー、セキュリティ、二次利用等)についても、契約で整理しておく必要があります。
商業化時の契約書チェックリスト(案)
以上を踏まえ、将来ブレードレス風力発電が商業化された際に、契約書で確認すべき主要項目をチェックリストとしてまとめます。
□ 契約の性質の明確化
- 売買契約か、実証協力契約か、共同研究開発契約か
- 製品なのかプロトタイプなのか
□ 設備の仕様
- 型式、出力、サイズ、重量
- 対応風速範囲(発電開始風速、定格風速、カットアウト風速)
- 想定設置環境(気温範囲、耐候性など)
- プロトタイプか商業製品かの明示
□ 性能保証(新技術対応)
- 保証の有無と内容(絶対値か相対値か)
- 前提条件(風速、稼働率など)の明示
- 保証期間(段階的評価の有無)
- 保証値未達時の救済手段(返金、改善義務、解除権等)
- 「ベストエフォート」条項の有無
□ リスク配分
- 技術的欠陥発覚時の責任分担
- 法規制変更時の対応費用負担
- 長期耐久性の不確実性への対応
- 不可抗力(台風、地震等)発生時の責任
- 第三者への損害賠償責任(製造物責任含む)
□ データと知的財産権
- 実証データの帰属と利用範囲
- 第三者への開示可否
- 改良発明の取扱い
□ 法令遵守
- 電気事業法等の関連法令への適合確認
- 認証・検査の実施義務と費用負担
- 法規制変更時の対応
□ 納入・設置
- 納期と遅延時のペナルティ(新技術ゆえの柔軟性確保)
- 設置工事の範囲と責任分担
- 試運転と検収条件
□ 保証・メンテナンス
- 製品保証期間と保証内容
- メンテナンス契約の内容と費用(内容が確定していない場合の取扱い)
- 故障時の対応体制(連絡先、応答時間など)
- 予備部品の供給体制と供給不能時の措置
- 遠隔監視システムとデータの取扱い
□ 契約期間・解除
- 契約期間と更新条件
- 中途解除の条件と違約金(新技術ゆえの特別解除権の検討)
- 契約終了時の設備撤去義務
このチェックリストは、あくまで将来の商業化を想定した検討材料であり、実際の契約内容は技術の成熟度や市場の状況に応じて柔軟に設計する必要があると考えられます。
商業化の現状と今後の展望
世界市場の動向
ブレードレス風力発電の世界市場は、実証実験段階にありながら、将来的な急速な成長が予測されています。複数の市場調査会社のデータによれば、2024年時点で約706~718億ドルの市場規模が、2037年には2,322億ドルに達すると予測されており、年平均成長率(CAGR)は約8.6~9.6%と見込まれています。
この成長予測の背景には、以下の要因があると考えられます。
- 再生可能エネルギーへの世界的な需要増加
- 都市部での分散型電源ニーズの高まり
- 騒音・環境負荷への関心の高まり
- IoT機器向け小規模電源としての需要
特に、ソーラーパネルとの併用による「ハイブリッド発電システム」としての活用が期待されており、太陽光発電が難しい夜間や曇天時にも安定的に電力を供給できる点が評価されています。
ただし、これらの市場予測は「商業化が実現する」ことを前提としており、技術的・経済的課題の克服が大前提となります。
日本における実証実験と課題
日本国内では、チャレナジーが2024年から福島県南相馬市で実証実験を開始しており、2025年には実寸大の実証機稼働を目指しています。また、同社は2025年9月にマクニカと事業提携を発表し、災害時のバックアップ電源としての普及を目指しています。
一方で、日本での本格的な商業展開にあたっては、いくつかの課題も存在すると考えられます。
(1)発電効率の課題
ブレードレス風力発電の発電効率は、従来型の約30~40%程度とされています。
この効率差を、コスト削減や環境メリットでどこまでカバーできるかが、経済性の観点から重要になります。
(2)実証データの蓄積
長期耐久性、実環境での発電性能、故障率など、商業化に必要な実証データがまだ十分に蓄積されていません。
今後数年間の実証実験が、商業化の成否を左右すると思われます。
(3)系統連系の課題
小規模・分散型の電源として普及する場合、多数の発電機を電力系統に接続する際の技術的・制度的な課題が生じる可能性があります。
特に、出力変動の大きさや、逆潮流への対応などは、今後の検討課題と思われます。
(4)投資回収期間
初期投資に対する回収期間が、従来型と比較してどの程度になるかは、導入判断の重要な要素です。
製造コストは低いとされていますが、発電効率も低いため、総合的な経済性評価が必要になります。
弁護士として見た法的整備の方向性
新技術の社会実装には、法的環境の整備が不可欠です。
ブレードレス風力発電についても、以下のような法的整備が今後必要になると考えられます。
(1)技術基準の明確化
現行の「発電用風力設備に関する技術基準を定める省令」は、主に回転式を前提としています。
振動式に特化した技術基準や、少なくとも解釈指針を経済産業省が示すことが望ましいと思われます。
実証実験段階においても、「どのような安全基準で実験を行うべきか」についてのガイドラインがあれば、開発企業と規制当局の対話が円滑になると考えられます。
(2)型式認証制度の整備
新たな型式の風力発電設備として、適切な認証手続きと基準を確立することが、製造者・導入者双方にとって重要です。
(3)小規模分散型電源に関する制度設計
ブレードレス風力発電は、大規模集中型ではなく、小規模分散型での活用が想定されます。このような新しい電源形態に適した系統連系ルールや、FIT/FIP制度の適用範囲の検討が求められると考えられます。
(4)実証実験の促進策
新技術の社会実装を加速するためには、規制のサンドボックス制度や、実証実験への支援策(補助金、規制の柔軟適用等)が有効と思われます。
(5)国際標準化への対応
風力発電の技術基準は、IEC(国際電気標準会議)などで国際標準化が進められています。ブレードレス風力発電についても、日本企業が国際標準づくりに積極的に関与していくことが、国際競争力の観点から重要と思われます。
まとめ
今回は、「羽根のない風力発電機」として注目されるブレードレス風力発電について、その技術的な仕組みから、日本における法的フレームワーク、そして将来の商業化を見据えた契約上の検討事項までを概観してきました。
ブレードレス風力発電は、振動というシンプルな原理で発電する画期的な技術であり、騒音が少なく、メンテナンスコストも低いという大きな利点を持っています。
市場予測も力強く、技術的課題を克服すれば、今後数年以内に商業化が本格化する可能性があると考えられます。
現時点ではまだ実証実験段階にあり、実際の商業契約が締結されるのはこれからです。
しかし、弁護士としては、実用化前の段階から法的な論点を整理しておくことに意義があると考えています。
特に、新技術特有の不確実性をどのように契約上でリスク配分するか、性能保証をどのように設計するか、実証実験段階でのデータや知的財産権をどう取り扱うかといった論点は、技術の成熟に伴って必ず顕在化すると考えられます。
また、法規制の面でも、従来の回転式風力発電を前提とした制度を、振動式という新方式にどう適用していくかについて、規制当局との対話が重要になります。
技術基準の明確化、認証制度の整備、小規模分散型電源としての制度設計など、検討すべき課題は多岐にわたります。
再生可能エネルギーの分野は日々進化しており、ブレードレス風力発電のような革新的な技術が次々と生まれています。
法律実務家としても、最新の技術動向をフォローし続け、新技術の社会実装を法的にサポートできるよう、準備を進めていく必要があると考えています。
今後、実証実験の進展や商業化の動きがあれば、改めて法的論点を整理し、実務に資する情報提供を行っていきたいと思います。

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