ざっくり言うと
📊 日本の電力は「4つの価値」に分けて取引されている
電力量(kWh)、調整力(ΔkW)、供給力(kW)、環境価値の4つに分離され、それぞれ異なる市場で取引される仕組みが構築されています。
⚡ 2028年以降「同時市場(Co-optimization)」導入で実務が大きく変わる
現在の「価格入札」方式から「コスト登録(Three-Part Offer)」方式への移行により、発電事業者の収益構造が根本的に変化すると考えられます。
🏗️ 容量市場・LTDAは長期投資の鍵
4年先の供給力を取引する容量市場と、20年間の固定収入を保証する長期脱炭素電源オークション(LTDA)が、電源投資の予見可能性を高める重要な制度として位置づけられています。
🔄 各ライセンス事業者への影響は多様
小売事業者、発電事業者(安定電源・再エネ・蓄電池)それぞれが異なる形で市場変化の影響を受け、コーポレートPPAの契約構造にも波及すると考えられます。
はじめに
日本の電力市場は、2016年の電力小売全面自由化以降、段階的な制度改革が進められてきました。かつての総括原価方式による垂直統合モデルから、発電・送配電・小売の機能分離を前提とした市場取引モデルへの移行は、単なる自由化にとどまらず、電力という商品の「価値」そのものを再定義するプロセスでもあったと言えます。
現在、日本では電力に関連する価値が「電力量(kWh)」「調整力(ΔkW)」「供給力(kW)」「環境価値」の4つに分離され、それぞれ異なる市場メカニズムで取引されています。この複雑な市場構造は、供給信頼度の確保と経済効率性の両立を目指す制度設計の帰結であり、今後さらに進化を続けると予想されます。
特に注目されるのが、2030年代前半を目標に検討が進められている「同時市場(Co-optimization)」の導入です。これは卸電力市場と需給調整市場を統合し、電力量(kWh)と調整力(ΔkW)を同時最適化する新たな市場設計であり、発電事業者の収益構造や小売事業者の調達戦略に大きな影響を及ぼすと考えられます。
本記事では、日本の電力4大市場の基本構造を整理したうえで、2030年代前半の制度改革が各ライセンス事業者や企業の再エネ調達戦略に与える影響について、法律実務とビジネスの両面から考察します。
第1章:なぜ電力は「4つの価値」に分けて取引されるのか
1.1 市場分離の基本哲学:供給信頼度と経済効率性の両立
電力自由化以前の日本では、大手電力会社が発電から小売まで一貫して担う「垂直統合モデル」が採用されていました。このモデルでは、電力の供給信頼度(いつでも安定して電気が使える状態)を確保するため、発電設備の建設・維持管理コストや燃料費などを「総括原価方式」で回収する仕組みが取られていました。
しかし、2016年の電力小売全面自由化により、発電事業・小売事業が競争市場として開放され、送配電事業は中立的な公共インフラとして分離されました。この構造変化に伴い、「誰が」「どのような経済的インセンティブのもとで」供給信頼度を確保するのか、という問題が顕在化しました。
この課題に対する日本の制度設計の答えが、電力に関連する価値を機能ごとに分離し、それぞれに市場メカニズムを構築するというアプローチです。具体的には、以下の4つの価値が区分されています。
- 電力量(kWh):実際に消費される電力そのもの
- 調整力(ΔkW):需給バランスを維持するための上げ下げ調整能力
- 供給力(kW):将来の需要ピーク時に供給できる能力(設備容量)
- 環境価値:再生可能エネルギー等の非化石電源としての価値
それぞれの価値は異なる時間軸と目的を持ち、したがって異なる市場設計が必要とされます。
1.2 4つの価値と対応する市場の全体像
各価値に対応する市場の概要は以下の通りです。
| 価値の種類 | 対応する市場 | 取引の時間軸 | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 電力量(kWh) | 卸電力市場(スポット市場等) | 前日・当日 | 電力の効率的な調達 |
| 調整力(ΔkW) | 需給調整市場 | 前日・当日 | 需給バランスの維持 |
| 供給力(kW) | 容量市場・LTDA | 4年先~20年先 | 供給信頼度の確保・長期投資の促進 |
| 環境価値 | 非化石価値取引市場・高度化法義務達成市場 | 年度単位 | 脱炭素化目標の達成 |
この市場分離により、たとえば「発電しないが調整力を提供できる蓄電池」や「環境価値のみを分離して販売する再エネ電源」といった、多様な事業モデルが可能になりました。
1.3 市場分離がもたらす実務上の複雑性
一方で、この市場分離は実務上の複雑性も生み出しています。
たとえば、再エネ発電事業者がコーポレートPPAを締結する場合、以下のような検討が必要になります。
- 電力量(kWh):物理的な電力供給をどのように行うか(小売電気事業者経由か、自己託送か)
- 調整力(ΔkW):変動性再エネの出力変動に伴う調整力費用を誰が負担するか
- 供給力(kW):容量市場への参加義務と容量拠出金の負担構造
- 環境価値:非化石証書をPPA契約に含めるか、別途取引するか
こうした多面的な検討が必要になる背景には、電力という商品が単一の価値ではなく、複数の価値の束として取引される構造になっていることがあります。
次章以降では、4つの市場それぞれの詳細なメカニズムと、2030年代前半の制度改革が実務に与える影響について解説していきます。
💡 ここから先は有料記事で詳しく解説しています
第1章で電力市場の基本哲学と4つの価値の全体像をご理解いただけたかと思います。
ここから先の第2章~第4章では、以下の実務的な内容を詳しく解説しています。
📊 第2章:各市場の具体的な価格決定メカニズム(メリットオーダー、マルチプライスオークション、LTDAの90%還付ルールなど)
⚡ 第3章:2030年代前半の同時市場導入による収益構造の根本的変化(Three-Part Offerの実務、固定費回収の不確実性など)
🏢 第4章:事業者タイプ別の影響分析とコーポレートPPA契約への波及効果(価格交渉のポイント、リスク分配方法など)
企業の電力調達戦略やコーポレートPPA検討に直結する実務知見を体系的にまとめた完全版は、noteで公開しています。
第2章:4つの市場の詳細メカニズム
2.1 卸電力市場(スポット市場):電力量(kWh)の取引
2.2 需給調整市場:調整力(ΔkW)の取引
2.3 容量市場・長期脱炭素電源オークション(LTDA):供給力(kW)の取引
2.4 非化石価値取引市場・高度化法義務達成市場:環境価値の取引
👉 各市場の詳細な価格決定メカニズム、入札ルール、事業者への実務的影響については、noteの完全版記事で解説しています。
第3章:2028年制度改革 ー 「同時市場」導入のインパクト
3.1 「同時市場(Co-optimization)」とは何か
3.2 価格入札から「コスト登録」へ:Three-Part Offer の導入
3.3 収益構造の変化:発電事業者のビジネスモデル転換
3.4 中長期市場の導入と先渡し取引の活性化
👉 2028年改革の詳細な影響分析と事業者別の対応策については、noteの完全版記事で解説しています。
第4章:各ライセンス事業者から見た影響とコーポレートPPAへの波及
4.1 小売電気事業者への影響
4.2 発電事業者(安定電源)への影響
4.3 再エネ発電事業者への影響
4.4 蓄電池事業者にとっての収益機会
4.5 コーポレートPPAへの波及効果
👉 各事業者の具体的な収益機会・リスク分析、コーポレートPPA契約への実務的影響については、noteの完全版記事で解説しています。
まとめ
📝 より詳しく知りたい方へ
📝 より詳しく知りたい方へ
本記事の完全版では、以下の内容をさらに詳しく解説しています。
✅ 各市場の具体的な価格決定メカニズム
スポット市場のメリットオーダー、需給調整市場の5商品区分の詳細、容量市場・LTDAの入札ルールと市場収益還付の計算例
✅ 2028年同時市場導入による発電事業の収益構造変化
Three-Part Offerの実務的影響、固定費回収メカニズムの変化、事業者の戦略的対応
✅ 事業者タイプ別の市場参加戦略と実務対応
小売事業者の調達コスト管理、安定電源・再エネ・蓄電池それぞれの収益最大化戦略
✅ コーポレートPPA契約における市場リスクの分配方法
物理PPA・バーチャルPPAにおける価格変動リスク、バランシングコスト、非化石証書の取扱い実務

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