[マレーシア] Net Energy Metering(NEM)制度とは? NEM 3.0の全貌と2025年の最新動向

ESG

 

はじめに

今回はマレーシアのNet Energy Meteringについて説明していきます。
だいぶマイナーなんですが、興味がある方も必ずいらっしゃると信じて書き進めてみます。
マレーシアでは、太陽光発電の導入促進を目的として、Net Energy Metering(ネットエネルギーメータリング、以下「NEM」といいます。)制度が2016年に導入されました。
この制度は、再生可能エネルギー政策の中核的ツールとして段階的な改良を重ね、現在のNEM 3.0に至っています。
2025年5月時点では、家庭向けのNEMラクヤットに追加枠が設けられるなど、政策的にも活発な動きが見られています。
本記事では、NEM制度の創設から最新動向までをできるだけ網羅的に紹介できればと考えています。

NEM制度の基礎と発展の経緯

制度創設期(2016年〜2018年)

NEM制度は2016年11月に開始され、当初は余剰電力を国営電力会社テナガ・ナショナル(Tenaga Nasional Berhad、以下「TNB」といいます。)に対して代替コストで売電する仕組みでした。
この段階では、固定価格買取制度(Feed In Tarrif)制度とは異なり、太陽光発電で生じた電力をまず自家消費し、余剰電力のみをグリッドに送電する点が特徴です。

NEM 2.0(2019年〜2020年)

2019年から始まったNEM 2.0では、真の意味でのネットメータリングが導入されました。
すなわち、1kWhをグリッドに供給すると、同量の1kWhが電気料金から差し引かれる「1対1のオフセット方式」が採用され、制度の経済性が大きく向上しました。
この間、特に産業用途における太陽光導入が加速しました。

NEM 3.0とその構造

NEM 3.0は2021年から2025年まで実施されており、従来のNEM制度を三つのプログラムに分割し、住宅用、政府機関用、及び、商業・産業用と用途別に制度を設計しています。
以下簡単に説明します。

NEM Rakyat

住宅用に600MW(後に追加により600MW→700MW)を割り当て、1対1のオフセット方式が採用されます。
単相は5kWac、三相は12.5kWacが上限で、TNBの契約者である必要があります。
余剰電力はクレジットとして12カ月まで繰り越し可能です。

2024年4月にはSolaRIS(Solar for Rakyat Incentive Scheme)と呼ばれる最大RM4,000の補助制度が導入され、2025年4月まで延長されました。

NEM GoMEn

政府機関向けの制度で、100MWを割り当てられました。
設置容量は最大1,000kWで、中圧・低圧のそれぞれに設置条件が設定されています。
10年間のオフセット権利が認められ、公共施設での導入が期待されている仕組みです。

NOVAプログラム

商業・産業向けで、最大1700MWの買取枠が設定されています。
1対1オフセット方式に加え、余剰電力の買い取り価格がシステム限界価格の月間平均で決まる点が特徴です。
また、複数施設への仮想的な電力集約も認められています。

以下に、NEM 3.0の三つのプログラムの主な違いをまとめた比較表を示します。

プログラム名 対象 割当容量 主な特徴 備考
NEM Rakyat 住宅用 700MW(追加後) 1対1オフセット方式、クレジット繰越最大12カ月、設置容量に上限あり SolaRIS補助最大RM4,000
NEM GoMEn 政府機関 100MW 最大1,000kW、10年間のオフセット権利 中・低圧それぞれに制限あり
NOVAプログラム 商業・産業用途 1700MW 1対1オフセット+SMP平均価格、仮想集約が可能 複数施設への電力供給が可能

制度の効果と最新データ

2024年末時点で、NEM 3.0の買取枠のうち約82%が消化済みとなり、家庭用(NEM Rakyat)は95%、GoMEnは65%、NOVAは78%に達しています。
100MW more for domestic solar installations

2025年5月には、さらにNEM Rakyatに対して100MWの追加枠が設定され、総枠は600MWから700MWに増加しました。
Govt mulls new rooftop solar mechanism, adds 100MW residential quota

マレーシアの国際的コミットメントと制度の意義

マレーシアはパリ協定を批准しており、2030年までにGHG排出原単位を無条件で45%削減することを掲げています。
第12次マレーシア計画では、再エネ比率31%を目指すとされており、NEM制度はこの目標達成に向けた主要政策の一つです。

大規模太陽光との相互補完

政府はNEM制度と並行してLSS(Large Scale Solar、大規模太陽光発電)プログラムを積極的に推進しています。
これは、分散型の太陽光発電を促進するNEM制度とは異なり、メガソーラー級の大規模設備を対象とした集中型の発電スキームです。

2024年の発表では、LSSプログラム第5期(LSS5)において、総計2000MWの新規開発枠が設けられ、国内外の再エネ開発事業者による競争入札が予定されました。
これにより、マレーシア国内の電力需給の安定化と再エネ比率の向上が期待されています。

さらに、革新的な取り組みとして、水上太陽光発電プロジェクト(floating solar)に特化した500MWの追加枠が導入され、貯水池や鉱山跡地など未利用水面の活用が進められています。
この取り組みは、土地制約のある地域においても再エネ開発を可能にする方策として注目されています。

加えて、NEDA(New Enhanced Dispatch Arrangement)メカニズムの下、風力、小水力、バイオマス、水素などの非太陽光源を対象とした低炭素発電プロジェクトの開発も奨励されており、総枠400MWが確保されています。

LSSとNEMは、制度設計上は補完関係にあります。
LSSが主に基幹電源としての安定供給を担う一方で、NEMは個人・法人の電力自給とコスト削減を支える役割を果たしており、両者の並行推進により、マレーシアのエネルギーミックスの多様化と持続可能な成長が促進されています。

まとめ

マレーシアのNEM制度は、段階的な進化を経て比較的小規模な再エネ政策の中核的存在となってきました。
家庭用から産業用まで幅広いセグメントに対応する制度構造は他国にも参考になるモデルであり、今後のさらなる促進策や制度進化が注目されます。
制度の運用においては、法的・技術的な要件の遵守とともに、政策変更への継続的なフォローアップが重要となります。

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