目次
はじめに
今回は廃プラスチックのリサイクルについて説明していきます。
廃プラスチック問題は、気候変動や海洋汚染と並ぶ地球環境の重大な課題の一つになっています。
世界で年間3億トン以上のプラスチックが生産され、その多くが焼却または埋め立てにより処理されている現状は、持続可能な社会からは程遠い状況にある、といえます。
企業にとっても、ESG経営の重要性が増す中、プラスチックの資源循環は避けては通れない課題となっています。
そうした中、注目を集めているのが「油化ケミカルリサイクル」です。
油化ケミカルリサイクルとは
油化ケミカルリサイクルとは、使用済みプラスチックを高温で熱分解し、油(分解油)に戻すリサイクル技術です。
得られた油はナフサ(ガソリンに似た透明な液体で石油製品の一種)などに精製され、再びプラスチック製品の原料として利用されます。
(引用元: 合廃プラ油化技術で東洋エンジニアリングとタイのSCGケミカルズが協業)
これは従来のマテリアルリサイクル(機械的再利用)では対応できない汚れたプラスチックや複合材にも対応可能で、資源循環の拡大が期待されています。
国内での導入動向と主要プレイヤー
日本では、いくつかの企業が油化ケミカルリサイクルに取り組んでいます。
例えば、ENEOSと三菱ケミカルは、茨城県鹿島において年間2万トンの廃プラスチックを処理可能な油化プラントを建設し、2024年の稼働を予定しています。
「プラスチック油化ケミカルリサイクル 先端技術を使った新たな資源循環モデル」
日本国内でも技術面では一定の進展が見られていますが、商業化の規模や廃プラの回収体制の整備などの面では、まだ道半ばといえる状況です。
海外の動向と日本との比較
欧州ではすでに複数の油化ケミカルリサイクル施設が稼働しており、2023年時点での処理能力は約15万トンと推定されています。
「PLASTICS RECYCLING INDUSTRY FIGURES 2023」
これは、欧州全体のプラスチックリサイクル処理能力約1320万トンのうち、約1.1%に相当します。
背景として、欧州委員会による厳格な規制や、企業のサステナビリティ戦略の強化が後押しとなっています。
特に、廃プラスチックの輸出禁止や埋立制限などが国内での再資源化技術の開発を促進しています。
一方、日本では廃プラの多くが焼却され、資源循環の観点では欧州に後れを取っているといえます。技術開発は進んでいるものの、法制度やインフラ整備の遅れ、そして市場規模の小ささが課題として残っています。
ESG視点での評価と課題
油化ケミカルリサイクルはESG経営の観点から多くの利点が期待されています。
まず環境面(E)では、焼却処理よりも温室効果ガスの排出を抑制できる可能性があり、また、原油由来のナフサの代替として再資源化を実現できます。
社会面(S)では、地域ごとに設置される小規模な油化装置による地産地消の循環や、廃棄物処理業者との連携による雇用創出が考えられます。
一方で、こうした理想像とは裏腹に、油化ケミカルリサイクルが社会に広く浸透していないのには理由があると考えられます。
まず、エネルギーコストの高さが大きなネックとなっていると思われます。
高温加熱に伴う電力・燃料費が事業コストを押し上げており、再生産された分解油の価格が市場競争力を持たないケースも少なくありません。
また、油化処理には設備投資が巨額であることも普及の妨げとなっています。
さらに、廃プラスチックの収集・選別インフラが整っていないことも課題です。
油化に適したプラスチックとそうでないものの区別が現場で難しく、混合廃棄物の処理効率や製品の品質に影響を与えます。
加えて、ケミカルリサイクルによって得られる製品に対する法的な「再生プラ」表示の基準や、消費者への説明責任の在り方も制度的に曖昧なままです。
このように、油化ケミカルリサイクルが期待されながらも普及していない背景には、多面的かつ根本的な課題が横たわっています。
ただ、個人的な意見ですが、ゴミの分別を全くしないか、ほとんどしないことが多い他国の状況を考えると、それなりにゴミの分別が社会に定着している日本は、廃プラスチックの収集・選別インフラを整えさえすれば油化ケミカルリサイクルが広がる可能性を大いに有していると思われます。
関連法制度と認証スキーム
日本では「廃棄物処理法」や「資源有効利用促進法」が制度の基礎となっており、ケミカルリサイクル製品に対する「再生プラスチック」表示の可否や定義は今後の検討課題となっています。
一方、ISCC(International Sustainability & Carbon Certification)は、再生原料のトレーサビリティ確保やカーボンフットプリント削減に有効な制度として注目されています。
これらの認証スキームを活用し、製品の信頼性と持続可能性を明確に示すことが、企業にとっての競争優位性につながると考えられています。
今後の展望と政府・企業に求められる対応
今後、油化ケミカルリサイクルが持続可能な形で普及するためには、技術面だけでなく制度面や社会的受容性の向上が必要です。
具体的には、触媒技術の進化や低温分解プロセスなどによるエネルギー効率の改善、政府による補助金制度の整備、排出量取引市場との連動などが期待されます。
また、企業側には、Scope3(バリューチェーン全体)における温室効果ガス削減を視野に入れた素材選定や製品開発が求められます。
TCFD、TNFD、SBTiなどの国際的な情報開示基準とも整合性を持たせたESG経営の実践が重要と思われます。
まとめ
油化ケミカルリサイクルは、廃プラスチック問題への新たな対応策として注目されていますが、その持続可能性は技術だけでなく、制度、社会的受容性、経済合理性など多面的な要素で評価する必要があります。
企業がこの分野に関与する際は、単なる技術導入に留まらず、ESG経営の中核に据えて透明性ある取組みを行うことが求められる、と考えています。
上記のとおり、日本はこの分野の大きなポテンシャルを秘めていると考えていますので、この分野の成長、とても楽しみです。
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