✅ ざっくり言うと
- 🌍 米国ビッグテック各社が原子力発電への投資を加速、AI時代の電力需要増が背景に
- 🇪🇺 ウクライナ戦争後の欧州ではエネルギー安全保障の観点から原子力を再評価
- 🇯🇵 日本は第7次エネルギー基本計画で「原子力の最大限活用」へ方針転換するも新設は想定せず
- ⚖️ 技術的可能性と経済合理性、社会的合意形成という3つの視点からの冷静な議論が必要
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はじめに
今回は、世界的に注目を集めている「原発回帰」の動きと、日本のエネルギー政策における原子力の位置づけについて説明していきます。
2024年以降、米国の巨大IT企業が相次いで原子力発電への投資を表明したことで、「原発回帰」という言葉が国内外のメディアを賑わせています。
2024年9月には米マイクロソフトがスリーマイル島原発から全電力を調達する20年契約を締結し(日経新聞)、同年10月にはグーグルが次世代小型モジュール炉(SMR)開発企業のカイロス・パワーと電力購買契約を結びました(記事)。さらに2025年6月にはメタが20年間の原子力発電購入契約を発表しています(ジェトロ記事)。
一方、日本では2025年2月18日に第7次エネルギー基本計画が閣議決定され、福島第一原発事故以降盛り込まれていた「原子力依存度の可能な限りの低減」という文言が削除され、「再生可能エネルギーと原子力を共に最大限活用」という方針へと転換しました(資源エネルギー庁ウェブサイト)。
このような世界的な動きは、本当に「原発回帰」と呼べるものなのか、それとも別の要因による政策調整なのか。再エネ・エネルギー分野を専門とする弁護士として、技術的可能性、経済合理性、そして社会的受容性という3つの視点から、この問題を整理してみたいと思います。
世界で起きている「3つの大きな潮流」
潮流①:エネルギー安全保障の再構築
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、欧州のエネルギー政策に大きな影響を与えたと考えられます。ロシア産天然ガスへの依存からの脱却を迫られた欧州連合(EU)は、再生可能エネルギーへの移行を加速すると同時に、原子力を「エネルギー安全保障の要」として再評価する動きを見せています(【国際】ウクライナ侵攻から2年、世界のエネルギー・原子力状況)。
2024年のEI統計によれば、EUの電力構成は再エネが最大で34%を占める一方、原子力も23%と重要な位置を占めており、非化石電源全体で70%に達しています(レポート)。
このように、ロシア依存からの脱却と脱炭素化を同時に進める戦略が鮮明になっていると言えます。
フランスは世界屈指の原発大国として、既設原発の運転期間延長を軸に据えつつ、2023年7月には17万kWの小型モジュール炉(SMR)2基の予備的許認可手続を開始しました(開発に困難がありつつも進行する小型モジュール原発と欧米3社の動向)。
英国も新規原発建設計画を進めています。
地政学的リスクの顕在化は、「エネルギー源の多様化」という古典的ではあるものの本質的な命題を、改めて政策立案者に突きつけたと考えられます。
潮流②:脱炭素化の現実路線としての原子力
COP28において、22カ国が2050年までに原子力発電容量を現状の3倍まで増加させるという多国間宣言を発表しました(レポート)。
これは単なる理想論ではなく、気候変動対策の目標達成に向けた現実的な計算に基づくものと思われます。
国際エネルギー機関(IEA)の報告書「Electricity 2024」によれば、再生可能エネルギーと原子力による発電量の増加に伴い、世界の発電によるCO2排出量は2024年には2.4%減少し、2025年と2026年にはさらに減少する見通しです(IEA「Electricity 2024」を発表、今後の電力需要増に原子力も一役)。
原子力はCO2排出がほぼゼロであり、太陽光や風力と異なり天候に左右されない安定電源(ベースロード電源)として機能します。
再生可能エネルギーの変動性を補完する電源として、原子力が再評価されているという見方が適切であると考えられます。
ただし、「再エネか原子力か」という二項対立的な議論は生産的ではありません。
第7次エネルギー基本計画でも「再生可能エネルギーか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再生可能エネルギーと原子力を共に最大限活用していくことが極めて重要」と明記されています。
潮流③:AI時代の電力需要爆発
最も劇的な変化をもたらしているのが、人工知能(AI)とデータセンターの急速な拡大による電力需要の急増です。
IEAの予測によれば、世界のデータセンター、AI等による電力需要は、2022年の460TWhから2026年にはベースケースで800TWhまで増加する見通しです(「電力需要について」)。
さらに2030年には約1兆kWhに達する可能性があるとの試算もあります(「第2回 解説記事:テーマ 「DXによる将来の電力需要の増加と課題」」)。
この膨大な電力需要に対し、再エネだけでは安定供給が困難であるとの認識が、米国の巨大IT企業を原子力へと向かわせている主要因と考えられます。
マイクロソフト、グーグル、メタといったビッグテック各社が2040年までに掲げる電力調達目標は、既存の電力インフラでは到底まかなえない規模です(「米テック、AIの電力を原発から調達 IHIや日立に商機」)。
小型モジュール炉(SMR)への投資が相次いでいるのも、この需要増を見越してのことと思われます。
SMRは従来の大型原発より建設期間が短く、モジュール化により量産効果が期待できるとされています。
米国では2025年5月に最初の商用SMRの建設が始まり、2030年の運転開始を目指しています(「商用SMRが北米で建設開始、2030年運転開始を目指す」)。
主要国の原子力戦略:4つの類型
世界各国の原子力戦略を見ると、大きく4つの類型に分けられると考えられます。
米国型: 既存炉延命+SMR開発の二正面作戦
米国は既存原発の延命措置と次世代SMR開発を並行して進めています。
スリーマイル島の再稼働計画に象徴されるように、閉鎖した原発の再起動による短期的な供給増を図りつつ、カイロス・パワーなど複数のSMRプロジェクトに連邦政府が税額控除を通じた財政支援を行っています。
フランス型: 原発大国の延命戦略
フランスは世界屈指の原発大国として、既設原発の運転期間延長を中心戦略に据えています。
2024年時点でフランスの電力構成において原子力は重要な位置を占めており、エネルギー自給率の確保と産業競争力維持の両面から、原子力への依存を継続する方針は揺るがないと見られます。
中国・韓国型: 積極的新設路線
中国は2024年に450TWh超の原子力発電を行い、米国に次ぐ世界2位の原発大国となりました(「世界の原子力発電量 国別ランキング・推移(EI)」)。
今後10年で設備容量を大幅に拡大する計画です。
韓国も原発輸出産業として育成する戦略を明確にしており、UAEへの輸出実績を足がかりに国際市場での存在感を高めています。
日本型: 再稼働・延命限定路線
では、日本はどこに位置するのでしょうか。
新設は実質的に封印され、再稼働と既設炉の延命に限定される日本の戦略は、表面的にはフランス型に近いと言えます。
しかし、社会的合意形成の面では大きく後れを取っているという指摘も多いのが現状です。
日本の第7次エネルギー基本計画が示す「最大限活用」の実態
政策文言の変化とその意味
2025年2月18日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画の最大の変化は、福島第一原発事故以降盛り込まれていた「原子力依存度の可能な限りの低減」という文言が削除され、「再生可能エネルギーと原子力を共に最大限活用」という方針に転換したことです(「大きく変化する世界で、日本のエネルギーをどうする?「エネルギー基本計画」最新版を読みとく(後編)」)。
この変更について、日本原子力産業協会の会長コメントでは「経済安全保障に対する要請の高まりや、DXやGXの進展による電力需要増加の見込みを受けて、政府が原子力の最大限活用の方針を示したことは大変意義深い」と評価されています。
具体的な数値目標
具体的な数値を見ると、日本の原子力発電設備容量は2024年度の13GWから2030年度には17GWに増加する予測となっています(「原子力発電の2030/2040年度の見通し、シナリオ別に見る現実性」)。
ただし、2030年代以降は原子炉の運転期間の終了が相次ぎ、2040年度には13GWまで減少するシナリオも示されています。
別の試算では、高位のシナリオでは2030年度の設備容量が25GWに増加する可能性も指摘されていますが、これは既存の原子力発電所がほぼすべて再稼働することを前提とした数字であり、現実性については慎重な見方が必要と思われます。
再稼働の現状
2025年1月時点で、日本全国で14基の原子力発電所が稼働しています。
建設中を含めて原子力発電所の設備容量は約3,700万kW(37GW)ですが、再稼働したものは14基約1,325万kW(13.25GW)にとどまっています。
つまり、「最大限活用」とは、既設炉の可能な限りの再稼働と60年超運転の実現を意味しており、新設による容量拡大を想定したものではないと理解するのが適切と考えられます。
再エネとの関係
第7次計画では、2040年までに再生可能エネルギーを全体の4割から5割へと拡大し、最大の電源とする方針も示されています。
原子力は「再エネの変動性を補完する安定電源」という位置づけであり、これは欧州各国と同様、「再エネか原子力か」という二項対立を超えた現実的なアプローチと評価できるかもしれません。
しかし、計画が示す数値目標と社会的現実の間には、依然として大きなギャップが存在すると言わざるを得ません。
原子力発電の経済合理性を冷静に評価する
既設炉延命のコスト効率
原子力の経済性を論じる際には、既設炉の延命と新設を明確に分けて考える必要があります。
既設炉の延命は、比較的コスト効率が良いと評価されています。
追加の安全対策費は必要ですが、すでに建設済みの施設を活用できるため、発電コストは他の電源と比較して一定の競争力を有すると考えられます。
2024年の発電コスト検証ワーキンググループの試算でも、既設原発の運転継続には一定の経済性があると評価されています。
新設の高いハードル
一方、新設のハードルは極めて高いと言わざるを得ません。
資源エネルギー庁の発電コスト検証によれば、2024年6月時点で原子力規制委員会に新規制基準適合性審査を申請している原発全体(16原発27基)について、電力会社から聴取した追加的安全対策費は大幅に増加しています。
米国の試算では、十分に検討された原子力建設プロジェクトの初号機(FOAK, First of a kind)のコストはkW当たり6,200ドル程度と見込まれています(「原子力発電の建設コストは案外と安くなるだろう」)。
開発期間も10年以上を要し、その間の金利負担も無視できません。
再エネとのコスト比較
対照的に、再生可能エネルギーのコストは劇的に低下しています。
BloombergNEFによると、2024年に世界全体で新設した太陽光発電のコストは過去最低の36米ドル/MWh(メガワット時)となりました(「太陽光発電が2024年に世界全体で拡大、蓄電池のコスト低下も後押し」)。日本円に換算すると、約5円/kWhです。
また、蓄電池のコストも2024年に約40%下落しています(「原子力発電、24年は過去最高も今後減速へ 投資不足や老朽化で」https://jp.reuters.com/markets/commodities/VYZ2MAZZCJNRPBUZNSOZEKGIBQ-2025-09-22/)。
この結果、再エネの経済性は急速に向上していると考えられます。
SMR(小型モジュール炉)の可能性と課題
次世代原発として注目を集めるSMRは、従来の大型原発より建設期間が短く、モジュール化により量産効果が期待できるとされています。
市場予測によると、SMR市場は2025年の約75億ドルから2034年には約161億ドルに拡大し、年平均成長率(CAGR)は8.9%と高い成長が見込まれているとのことです(「【2025年版】SMR(小型モジュール炉)とは?最新動向と注目企業・AI・通信インフラとの関係を徹底解説」)。
しかし、実用化への道のりは平坦ではありません。
米ニュースケールパワーは2023年11月、米国初となるSMRの建設計画を中止すると発表しました。
2029年に稼働予定でしたが、インフレによる建設費の値上がりで経済性が見込めなくなったことが理由とされています(「米国初めざした次世代小型原発、建設計画中止 日本からも出資の企業」)。
SMRの実用化と経済性の証明は、まだこれからの課題であり、技術的可能性と経済的実現可能性の間には依然として大きな溝があると認識すべきと考えられます。
避けて通れない2つの根本課題
課題①: 安全性の確保
福島第一原発事故は、「想定外」が現実になることを示しました。
事故後、原子力規制委員会による新規制基準が導入され、耐震性、津波対策、過酷事故対策などが大幅に強化されました。
再稼働には厳格な審査が必要であり、これが再稼働の遅れの一因でもあります。
しかし、規制強化は必要なコストであると考えられます。
安全性を軽視した運用は、一度の事故で社会全体に取り返しのつかない損害をもたらす可能性があります。
技術的安全性の追求と、それを実現するための組織文化の構築は、原子力利用の大前提であると言えます。
課題②: 放射性廃棄物の最終処分
より根本的な課題は、高レベル放射性廃棄物の最終処分です。使用済み核燃料は10万年規模での管理が必要とされています。
この問題で世界の先頭を走るのがフィンランドです。オルキルオト島に建設された最終処分場「オンカロ」(フィンランド語で「洞窟」の意)は、地下400〜450mに使用済み燃料を埋設し、2024年8月末に試運転を開始しました。
数十年にわたる地質調査と地域社会との対話を経て実現したこのプロジェクトは、技術的解決だけでなく社会的合意形成のモデルとしても注目されています。
2025年3月には、使用済み核燃料を1万年以上眠らせるための計画がついに動き出しました。
スウェーデンも同様に最終処分場の建設を進めており、北欧2カ国は「核のごみ」問題に実効的な解決策を示しつつあると評価できます。
一方、日本では最終処分地の選定すら難航しているのが現状です。
地質的条件の調査と同時に、地域住民との信頼関係構築、透明性の高い情報開示、長期的責任の制度設計など、多層的な課題が山積していると言わざるを得ません。
この問題を先送りし続けることは、将来世代への無責任な負担の押し付けにほかならないと考えられます。
社会的対話の不足という日本固有の課題
技術論や経済論以上に深刻なのが、社会的対話の不足であると考えています。
日本のエネルギー政策は、しばしば「空気」で決まると指摘されることがあります。
福島事故直後の「脱原発」ムードから、電力不足懸念による「再稼働やむなし」への揺り戻し。
第7次基本計画の「最大限活用」への転換も、十分な国民的議論を経たとは言い難いという声があります。
実際、世論は分断されたままです。
原発立地地域と都市部では温度差があり、世代間でも意見は分かれています。
こうした対立を乗り越える社会的対話のプラットフォームが構築されていないという指摘は、重く受け止める必要があると思われます。
フィンランドやスウェーデンが最終処分場建設に成功した背景には、数十年にわたる地道な対話の積み重ねがあります。
技術的説明だけでなく、リスクとベネフィットの公平な分配、意思決定プロセスの透明性、地域への経済的還元など、多面的なアプローチが機能したと言われています。
再エネ・エネルギー分野を専門とする弁護士の立場から見ると、日本には「合意形成の法的枠組み」が不足していると感じることがあります。
環境影響評価法や原子炉等規制法は存在しますが、地域住民の実質的参加を保障する手続き的権利や、長期的な責任の所在を明確にする制度設計は十分とは言えません。
政策決定プロセスの透明性と説明責任の強化が、信頼構築の出発点になると考えられます。
まとめ: 技術、経済、社会の三位一体で考える
世界で進む原子力の再評価には、エネルギー安全保障の強化、脱炭素化の現実路線、そしてAI時代の電力需要爆発という3つの明確な駆動力があることが確認できました。
この潮流は、感情論ではなく現実的必要性に基づいていると理解すべきでしょう。
しかし、技術進化だけでは問題は解決しません。
SMRが経済的に成立するかは未知数であり、放射性廃棄物の最終処分は世代を超えた課題です。
何より、社会的合意なき政策推進は、持続可能性を欠くと言わざるを得ません。
日本が取るべき現実的なロードマップは、以下の3点に集約されると考えられます。
第一に、既設炉の安全性を最優先した運用と延命措置の着実な実行です。
新設が社会的・経済的に困難である以上、既存資源の最大活用が現実的な選択肢となります。
ただし、安全性の確保は絶対条件であり、規制の厳格な運用は必要不可欠です。
第二に、再生可能エネルギーとの共存戦略の構築です。
原子力を「つなぎ」として位置づけるのではなく、再エネの変動性を補完する安定電源として機能させ、両者の最適なミックスを追求することが重要と考えられます。
第三に、そして最も重要なのが、社会的対話の制度化です。
地域住民、専門家、市民社会、そして将来世代の利益を代表する仕組みを組み込んだ、透明で参加型の意思決定プロセスを構築すること。
これなくして、いかなるエネルギー政策も持続可能性を持ち得ないと思われます。
原発回帰は、単なる政策の揺り戻しではありません。
それは、エネルギー安全保障と気候変動対策という二つの危機に直面した世界が、あらゆる選択肢を総動員せざるを得ない現実を映していると考えられます。
技術的可能性、経済的合理性、そして社会的受容性——この3つの次元から、日本のエネルギーの未来について冷静な議論を重ねていくことが、今こそ求められているように思われます。

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