✅ ざっくり言うと
- 🔋 国の導入支援を受けて運転を始めた系統用蓄電池では、需給調整市場からの収入が大部分を占めたという実績があります。ただし、国内の全案件に共通する収益構造を示すものではありません。
- 📉 需給調整市場の一部商品では、上限価格が2026年3月及び9月の2段階で引き下げられました。上限価格の変更だけで将来収入は決まりませんが、従来の価格を前提とした事業計画は見直す必要があると考えられます。
- 📊 投資判断では、約定価格に加え、実際に約定できる量及び時間帯、運営費用、卸電力市場での取引可能性を分けて検討することが重要です。
- 📝 アグリゲーターとの契約では、収益の分配方法だけでなく、市場収入が想定を下回ったときに誰がリスクを負うかを確認したいところです。
はじめに
今回は、系統用蓄電池の需給調整市場への収益依存と、事業者・投資家が今後の収益をどう見積もるべきかについて説明していきます。
先日の記事「一次調整力の価格は本当に『暴落』したのか」では、上限価格の引下げ直後の取引データを取り上げ、短期間の価格変化をどう読むべきかを検討しました。
本稿ではそこから視点を広げ、系統用蓄電池の収益構造を確認した上で、事業性評価やアグリゲーターとの契約において何を検討すべきかを整理します。
系統用蓄電池には、電気を貯めて必要な時間に放電する役割に加え、電力の需要と供給のずれを調整する役割が期待されています。
ただ、設備が提供できる価値と、その価値から事業者が実際に得られる収入は同じではありません。
蓄電池への投資を検討する際、「市場での運用収入をどの程度見込めるのか」が気になる方も多いのではないかと思います。
この点を考えるには、これまでの運用実績を確認した上で、現在の市場ルールを事業計画に反映させる必要があります。
需給調整市場の収入は、実際にどれほど重要だったのか
需給調整市場は、一般送配電事業者が周波数制御及び電力の需給バランス調整に必要な「調整力」を調達する市場です。電力需給調整力取引所による市場の説明によれば、蓄電池も各商品の要件を満たせば参加できます。
ここで取引される調整力は、簡単にいえば、必要なときに出力を調整できる能力です。
電気そのものを売買する卸電力市場での取引とは、収入の性質が異なります。
2026年3月の資源エネルギー庁資料では、2024年度の系統用蓄電池の運用実績として、対象案件の合計収入の大部分が需給調整市場によるものでした。
もっとも、この集計の対象は、過去の導入支援事業によって導入され、運転を開始した案件です。
資料は、国内の全ての系統用蓄電池について同じ収益割合が成立すると述べているわけではありません。
また、容量市場で約定した案件があっても、対象とする実需給の時期に達していない収入は、この集計には含まれていません。
したがって、この資料から読み取れるのは、対象案件では需給調整市場への収益依存が大きかったということです。
投資家が新たな案件の収益を見積もる際には、この実績を出発点としつつ、運転開始時期、参加できる市場及び設備の性能が異なることを踏まえる必要があります。
上限価格の引下げは、何を意味するのか
需給調整市場には、応答の速さなどに応じて複数の商品があります。
今回注目したいのは、そのうち一次調整力、二次調整力①、複合商品です。
ここで使われるΔkW(デルタキロワット)という単位は、発電した電力量そのものではなく、一般送配電事業者の指令に応じて出力を上下に動かせる調整可能な幅を表します。
電力需給調整力取引所が公表する上限価格表によれば、これらの商品の上限価格は、2026年3月13日実需給分までは19.51円/ΔkW・30分でしたが、前日取引化に合わせて2026年3月14日実需給分から15円/ΔkW・30分となり、さらに2026年9月1日実需給分から10円/ΔkW・30分に引き下げられています。
つまり、今回の変更は一度限りの引下げではなく、2段階目の措置に当たります。
これは全ての商品に一律に適用される価格ではありません。
また、上限価格とは、常にその価格で約定できるという意味でもありません。
事業者の収入を左右するのは、実際の約定価格だけでなく、どれだけの量が、どの時間帯に約定するかという点です。
上限価格が引き下げられても、ある案件の収入が同じ割合で下がると直ちに結論づけることはできません。
反対に、従来の高い価格で継続的に約定する前提を、そのまま将来に延ばすことも慎重であるべきだと考えられます。
2026年5月13日の電力安定供給ワーキンググループの資料では、応札不足と調整力の調達コストが論点とされています。
その後、2026年7月14日の同ワーキンググループ資料において、一次調整力、二次調整力①、複合商品の上限価格を15円から10円へ引き下げ、2026年9月1日実需給分から適用する方針が示されました。
市場の価格を考える際には、蓄電池事業者の収益性に加え、電力システム全体で調整力を確保する費用との関係も見ておく必要があります。
なお、これらの資料には、競争が十分に働いていないと評価される状況が続く場合に、7.21円/ΔkW・30分などへ段階的に引き下げることを検討する旨も記載されています。もっとも、将来の変更が既に決まったものとして事業計画に書くことは適切ではありません。
事業性評価では「価格」以外に何を見るべきか
私が重要だと考えるのは、収益予測を単一の価格見通しだけで示さないことです。
まず、需給調整市場への参加要件を設備が満たし、運用を担う事業者がその性能を継続的に発揮できるかを確認します。
次に、対象エリアと商品ごとに、約定価格だけでなく、約定量及び約定できる時間帯を検討します。
同じ上限価格の下でも、応札する事業者が増えれば、想定した量を約定できない可能性があります。
また、設備の建設費だけでなく、保守、運用、蓄電池の性能低下への対応など、事業期間を通じて発生する費用を見込む必要があります。
融資を受ける案件であれば、年間収入の平均だけでなく、返済が必要な時期に収入が不足しないかも重要になります。
例えば、想定より低い価格でしか約定しない場合、約定できる量が減る場合、運営費用が増える場合を別々に試算してみる方法が考えられます。
複数の悪条件が同時に生じても事業を続けられるかまで検討できれば、投資判断の根拠はより明確になると思われます。
これは「将来価格を正確に当てる」ための作業ではありません。
将来が予測と異なったとき、どの条件が事業の継続を左右するかを把握するための作業です。
卸電力市場などの収益は代わりになるのか
蓄電池は、電気の価格が比較的低い時間帯に充電し、高い時間帯に放電することによっても収益を得られる可能性があります。
電気を取引する日本卸電力取引所の取引概要にあるスポット市場と、調整力を取引する需給調整市場では、取引する価値が異なります。
そのため、需給調整市場の収入が変化する局面では、卸電力市場での運用も検討対象になります。
ただし、需給調整市場の収入が減った分を、卸電力市場の収入でそのまま埋められるとは限りません。
先ほどの2026年3月の資源エネルギー庁資料も、導入支援事業により導入された系統用蓄電池について、充放電の価格差を取るいわゆるアービトラージの活用及び収益は限定的であると指摘しています。
その理由としては、需給調整市場において一部の商品及びエリアで応札不足による約定価格の高止まりが見られること、卸電力市場では価格の変動幅が相対的に小さいことが挙げられています。
卸電力市場では、充電時と放電時の価格差に加え、充放電に伴う損失、設備の使用可能時間、運用上の制約などを踏まえる必要があります。
さらに、複数の市場で収益機会があっても、同じ時間帯に同じ蓄電池の能力を重複して使うことはできません。
「収益源を増やす」という説明だけでは足りず、それぞれの市場でいつ、どのように運用するのかを具体的に検討する必要があると考えられます。
アグリゲーター契約で確認したいリスク分担
蓄電池の所有者が市場での取引及び充放電の判断を外部の事業者に任せる場合、その相手方であるアグリゲーターとの契約が収益を大きく左右します。
契約の形としては、市場収入を一定の割合で分ける方法、所有者に最低限の収入を保証する方法、運用権の対価を受け取る方法などが考えられます。
運用権を相手方に与え、対価を受け取る形は「トーリング」と呼ばれることがあります。
これらを比べる際、固定の対価が高いか、収益分配の割合が有利かだけを見るのでは十分ではありません。
市場の約定価格及び約定量が見込みを下回った場合、その影響を誰が負担するのか。
蓄電池が故障した場合、又は想定した性能を発揮できない場合にはどう扱うのか。
市場ルールが変わった場合、運用方針及び対価を見直せるのか。
こうした点を契約で確認することが重要だと考えています。
最低保証があっても、その支払いを約束する相手方の信用力を確認しなければ、収入の安定性を十分に評価することはできません。
金融機関からの融資を想定する場合も、契約上の収入の安定性と、実際にその収入を支払える相手方かどうかの双方を見る必要があります。
まとめ
系統用蓄電池が電力システムに必要とされることと、個々の案件で想定どおりの収益を得られることは、分けて考える必要があります。
公表された運用実績には、需給調整市場への収益依存が大きい案件が示されています。
その一方で、対象商品の上限価格は2段階で引き下げられており、過去の条件をそのまま将来の収益予測に使うことは慎重であるべきだと考えられます。
これから案件を検討する際には、価格・約定量・費用の下振れをそれぞれ試算し、卸電力市場などでの運用可能性と、アグリゲーター契約上のリスク分担を確認することが重要です。
収益予測の数字だけで案件の良し悪しを判断することは難しいのでは、と考えています。
その数字がどのような市場環境と契約条件を前提としているのかまで確認することが、長期の事業として蓄電池を評価する第一歩になると思います。

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