なぜChipotleもFive Guysも東京より先にソウルへ来たのか – 海外外食ブランドの日韓比較から考える事業機会

✅ ざっくり言うと

・🇰🇷 先日ソウルを訪れた際、ChipotleやFive Guysを見かけ、「なぜ東京にはまだないのか」と疑問を持ちました。
・🍔 背景には、単純な食文化の違いだけでなく、海外ブランドを発掘し、現地展開する韓国企業の存在があります。
・🇯🇵 日本は巨大な外食市場である一方、既存の選択肢が非常に豊富で、海外ブランドにとって簡単な市場ではありません。
・💡 しかし見方を変えると、「次のChipotleやFive Guysを日本に持ってくる」という市場参入支援そのものが、一つの事業になり得ます。

目次

はじめに

今回は、先日ソウルを出張で訪れた際に感じた、海外外食ブランドの日韓の違いについて説明していきます。

私は海外に行くと、現地の飲食店を見るのが好きです。
有名レストランというより、「このチェーン、日本にはないな」といったことが気になります。
先日ソウルを歩いていたときに目に入ったのが、米国発のメキシカン・ファストカジュアルチェーンであるChipotle Mexican Grill(以下「Chipotle」といいます)でした。
米国ではよく知られたチェーンで、ブリトーやタコスのほか、自分で具材を選ぶブリトーボウルなどを提供しています。
私自身、以前米国に住んでいた際によく行ったお店で、米国出張時には必ず入るお店の1つです。

一方、東京ではChipotleを見かけません。
さらにソウルには、米国発のハンバーガーチェーンであるFive Guysもあります。
Five Guysも日本ではまだ一般向け店舗を展開していません。
そこで、単純な疑問が湧きました。

なぜ、こうした米国の外食ブランドは、東京より先にソウルへやってくるのか。

少し調べてみると、単純に「韓国のほうが米国文化を好む」といった文化論だけでは説明しにくく、海外ブランドの市場参入を支える企業や事業構造の違いがかなり大きいように思われました。
そして、さらに考えてみると、これは外食産業だけの話でもなさそうです。
海外の商品やサービスを日本に持ってくる「市場参入」という仕事そのものについて考えるきっかけにもなりました。

私が見かけたChipotleはアジア第1号店だった

調べてみると、私が見かけたChipotleは、かなりタイムリーな店舗でした。
Chipotleの公式発表によると、Chipotleは2026年9月2日、ソウル市瑞草区の江南大路にアジア第1号店をオープンしました。つい先週のことです。
しかも、単に韓国に一つの店舗を出したという話ではありません。
Chipotleは韓国を、今後アジアで事業を拡大するための「reference market」、つまり基準となる市場に位置付けています。

韓国事業は、韓国のSangmidang Holdings(旧SPC Group)との合弁会社を通じて運営されます。
Sangmidang Holdingsは、韓国の外食市場に関する知識や店舗運営の経験を提供し、食材調達、調理方法、従業員教育、店舗運営などを担います。
また、Chipotleは2026年末までに韓国でさらに2店舗を開設し、2027年にはシンガポールへ進出する計画を公表しています。
したがって、ソウル店は単なる海外店舗の一つではありません。

Chipotleにとって、アジア市場攻略のモデルを作るための店舗

という意味合いがあります。
巨大な外食市場を持つ日本ではなく、まず韓国を選び、そこでモデルを作ってからアジアへ広げていく戦略である点が非常に興味深いと思います。

Five Guysでも似た構造が見られる

Five Guysについても調べてみると、似た構造が見えてきます。
Hanwhaの公式資料によると、Five Guysは2023年に韓国へ進出しました。
韓国で事業を展開しているのは、韓国のHanwha Group傘下のHanwha Galleriaです。
Hanwha Galleriaは百貨店事業を中心に、海外ブランドの直接調達や独占販売、飲食事業などを幅広く手掛けています。
Hanwhaの会社資料によると、同社は2023年にFive Guysを韓国へ導入し、2026年公表時点で江南や汝矣島を含む8店舗を運営しています

ここで重要なのは、Five Guysが韓国へ単独で乗り込んできたわけではないという点です。
韓国市場を理解し、不動産、ブランドビジネス、店舗運営に関する能力を持つ韓国企業が、「韓国にFive Guysを持ってくる側」になっています。

ChipotleでもSangmidang Holdingsがその役割を果たしています。
さらに、Sangmidang Holdingsは、Shake Shackをはじめ、複数の海外外食ブランドを韓国へ導入した実績を持っています。
つまり、これは一社だけの偶然ではありません。

韓国には「海外ブランドを持ってくる企業」がいる

私は、この点が今回調べていて最も興味深いところでした。

海外外食ブランドの進出というと、「その料理が現地で受けるか」という話に目が向きがちです。
しかし、それと同じくらい重要なのが、誰がそのブランドを現地へ持ってくるのかという点です。
海外ブランドが韓国へ進出する場合、韓国側の企業が、例えば次のような機能を担います。
・ブランド本部との交渉
・店舗候補地の確保
・従業員の採用と教育
・食材調達と物流網の構築
・現地向けマーケティング
・日々の店舗運営
海外本部からすれば、これらをすべてゼロから自分で構築する必要がありません。

しかも、Sangmidang HoldingsやHanwha Galleriaのような企業であれば、資金力だけでなく、小売、飲食、不動産、ブランドビジネスに関する既存のノウハウがあります。
言い換えると、韓国には、世界で伸びているブランドを見つけ、韓国での展開権を確保し、現地でブランドを育てることを事業として行うプレイヤーが存在しています。
これは「韓国人は米国ブランドが好き」という文化的な説明とは少し違います。
ブランドと市場の間をつなぐ企業が存在しているという、産業構造上の話です。

ソウルは最初の話題を作りやすい

もう一つ考えられるのが、ソウルの都市構造です。

韓国では、消費、メディア、若者文化がソウル首都圏に集中しています。
特に江南のような場所に旗艦店を出せば、オフィス客、若者、観光客、SNSで情報を発信する層へ一度に接触しやすくなります。

ChipotleFive Guysも、韓国第1号店を江南に置きました。
もちろん、東京にも渋谷、新宿、丸の内、六本木、銀座など強い商圏があります。
しかし、巨大であるがゆえに、消費の場も情報の流れも複数の地域へ分散しています。
「江南に旗艦店を出して、まず韓国全体で話題を作る」という戦略は、海外ブランドにとって比較的描きやすいのかもしれません。

ただし、ソウルへ進出すれば必ず成功する、という意味ではありません。
話題化と、長期的に利益を出せることは別の問題です。

では、なぜ日本には来ないのか

もっとも、「日本には海外ブランドを導入する企業が存在しない」というほど単純な話でもありません。
日本にも海外ブランドの導入事例は多数あります。

Shake Shackも日本へ進出していますし、飲食以外まで広げれば、海外ブランドを日本企業が導入するビジネス自体は珍しくありません。
また、外国企業が日本で事業を行うこと自体に、特別に高い制度上の障壁があるわけでもありません。

JETROの案内にあるとおり、外国企業は、日本法人の設立、支店の登記、日本企業との合弁などを通じて、日本で継続的な事業を行うことができます。
もちろん、実際に飲食店を運営する際には、食品衛生、表示、雇用、輸入、店舗開発などへの個別対応が必要です。
しかし、ChipotleやFive Guysが日本にない理由を、一つの規制だけで説明することは難しいと思います。
それでも東京が常に最初の進出先になるわけではありません。

その理由の一つとして、日本の外食市場がすでに極めて成熟していることが考えられます。
ハンバーガーだけでも、国内外の多数のチェーンや個人店があります。
さらに、海外外食ブランドにとって本当に厳しい競争相手は、同じ種類の料理を出す店だけではありません。

日本で昼食を取ろうと考えれば、例えば次のような選択肢があります。
・牛丼
・ラーメン
・そば、うどん
・カレー
・定食
・弁当
・コンビニエンスストア
しかも、幅広い価格帯で一定以上の品質が期待できます。

これは海外外食ブランドからすると、かなり厳しい市場です。
「米国で人気がある」という理由だけで、高めの価格を設定しても、顧客が継続的に来てくれるとは限りません。

日本市場で難しいのは「価格」だけではない

Five Guysは、注文を受けてから調理し、店舗で切ったポテトを使用するなど、商品へのこだわりを特徴としています。
そのため、一般的なファストフードよりも高い価格帯になりやすいブランドです。
このモデルをそのまま日本に持ってきた場合、「海外で有名なバーガーだから」という理由だけで、継続的に高い価格を受け入れてもらえるかは慎重に考える必要があります。

Chipotleも同様です。
米国では、ブリトーボウルはオフィスワーカーなどが日常的に選ぶランチの一つです。
しかし、日本で既存の昼食より高い価格になった場合、それがどの程度、日常食として定着するのかは別問題です。

また、価格以外にも、日本市場への適応には多くの課題があります。
・原材料を日本で安定的に調達できるか
・本国の味やブランド体験をどこまで再現するか
・日本の消費者に合わせて商品量やメニューを変えるか
・高い賃料や人件費を吸収できるか
・一時的な話題で終わらず、日常利用へ移行できるか

したがって、「日本人が外国料理を好まない」という話ではないと思います。
むしろ、日本は巨大で魅力的な外食市場である一方、消費者の選択肢が多いため、新規参入者にとって難易度が高い市場と考えるほうが実態に近いと思われます。

それでも、日本未進出の海外ブランドはかなりある

一方で、この状況を別の角度から見ることもできます。

海外へ行くと、「これだけ有名なのに、なぜ日本にはないのだろう」というブランドにかなり出会います。
ChipotleやFive Guysだけではありません。
海外ではすでに複数店舗を展開し、一定の事業モデルを確立しているのに、日本にはまだ本格進出していない外食ブランドがあります。
この点からすると、「海外ブランドが日本へ来てくれるのを待つ」必要は必ずしもありません。
むしろ日本側から、このブランドを日本に持ってきたら面白いのではないかと考えて動くこともできます。

成長初期の「次のChipotle」を見つけるという発想

当然ながら、Chipotleが世界的な巨大企業になってから日本での展開権を取りに行くのは簡単ではありません。
競争相手も大企業になります。
むしろ面白いのは、その少し前の段階だと思います。
例えば、次のような海外ブランドです。
・本国で一定数の店舗を展開し、事業モデルが実証されている
・一定のブランド認知ができている
・海外展開を始めている
・日本での展開権がまだ決まっていない
・メニューが比較的シンプルである
・日本でも無理のない価格帯を設定できる
いわば、まだ成長初期にあった頃のChipotleやFive Guysを探すという発想です。

海外ではすでに事業モデルが実証されているものの、日本にはまだ誰も持ってきていない。
この段階で日本市場への進出を支援できれば、大きな事業価値が生まれる可能性があります。
ただし、店舗数などの表面的な条件だけで判断することはできません。
日本での展開権の有無、契約条件、必要資本、原価構造、商標、供給網などを一社ずつ確認する必要があります。

自分で飲食店を経営する必要はない

ここで、さらに面白いと思ったことがあります。

こうした事業をする場合、自分自身が飲食店経営者になる必要は必ずしもありません。
例えば、海外ブランドを発掘し、日本進出の可能性を検討します。

そのうえで海外本部と交渉し、日本の外食事業者や投資家を探します。
必要に応じて、日本法人やジョイントベンチャー(以下「JV」といいます)を設立し、マスターフランチャイズ契約(Master Franchise Agreement)やエリア開発契約(Area Development Agreement)などを締結します。

実際の店舗運営は、外食運営の経験を持つ企業が担当する形も考えられます。
この場合、自分たちが提供する価値は「ハンバーガーを作る能力」ではありません。

海外ブランドと日本市場をつなぐ能力

です。
例えば、次のような機能が考えられます。
・海外ブランドの発掘
・日本市場の調査
・海外本部との英語による交渉
・日本側の店舗運営事業者の選定
・投資家との調整
・JVの組成
・フランチャイズ契約などの契約交渉
・商標その他の知的財産対応
・食品規制や表示に関する確認
・不動産、物流、人材に関する専門家との連携
海外企業から見れば、これらの担い手を一つずつ探すのは相応の負担になります。
そこで、日本市場への参入に必要な機能をまとめた「Japan Market Entry Platform」のような仕組みを提供できれば、一つの事業になり得ます。

収益は店舗利益だけではない

市場参入支援を事業にする場合、収益源も店舗利益だけに限られません。

例えば、次のような組み合わせが考えられます。
・市場調査や参入計画の策定に対する支援報酬
・提携先や店舗運営事業者の紹介に対する成功報酬
・契約交渉、会社設立、規制対応などに対する専門サービスの報酬
・日本事業を行うJVへの出資持分
・継続的な事業開発やブランド管理に対する報酬

ただし、実際にどの報酬を受け取れるかは、ブランド本部、日本側事業者、投資家との交渉によります。
フランチャイズ契約上の制約や利益相反にも注意が必要です。

したがって、最初から壮大な全国展開を想定するより、まずは候補ブランドを探し、日本での展開権と本部の意向を確認し、採算性を検証することが現実的だと思います。

まとめ

今回の出発点は、「なぜソウルにはChipotleやFive Guysがあるのに、東京にはないのか」という素朴な疑問でした。

調べてみると、理由は一つではありません。
・海外ブランドを継続的に発掘する韓国企業がいること
・現地企業が資金、店舗、人材、物流、マーケティングを引き受けること
・ソウルの旗艦店から話題を作りやすいこと
・日本では外食の選択肢が非常に多く、新規参入の難易度が高いこと
これらの要素が重なっていると考えられます。

したがって、単純に「韓国のほうが米国文化を好むから」と結論付けるべきではありません。
むしろ注目すべきなのは、海外ブランドと国内市場の間に立ち、進出を実現する企業の存在です。

そして、これは日本にとって事業機会でもあります。
すでに有名になったブランドを追いかけるのではなく、次に伸びる海外ブランドを早い段階で見つける。
そのブランドに対して、日本市場を理解する事業者、投資家、専門家を組み合わせ、参入に必要な機能を提供する。
それができれば、自ら多数の店舗を運営しなくても、日本市場への参入そのものを一つの事業にできるはずです。

出張先で見つけた一軒の飲食店から、思いがけず新しい事業の形が見えてきました。

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