👉️ざっくり言うと
- インドネシア投資調整庁(BKPM)は2025年10月2日にBKPM規則第5号/2025(Peraturan Menteri Investasi No. 5 Tahun 2025)を公布・施行。
- 外国直接投資会社(PT PMA)の最低払込資本金を100億ルピアから25億ルピアに引き下げ。
- 日系中小企業・スタートアップにとって、インドネシア法人設立コストの大幅削減につながる。
はじめに
今回はインドネシアの外資規制の改正について説明していきます。かなり大きなインパクトがあるのではと思われます。
インドネシアでは、これまで外国投資会社(PT PMA)の最低払込資本金として100億ルピアが求められていましたが、2025年10月2日に施行されたBKPM規則第5号/2025により、25億ルピアへと大幅に引き下げられました。
この変更は、インドネシア政府が外国投資をより促進する方針を明確に示すものと考えられ、投資環境全体を再整備する一環として位置付けられます。
近年、インドネシアはASEAN諸国の中でも急速な経済成長を遂げる一方、行政手続や最低資本金要件の高さが参入障壁となっていました。
実際に、これまでインドネシア投資についてご相談をいただいた方々も、例外なくこの最低資本金の高さについて懸念している意見が多かったです。
今回の改正は、そうした課題を克服し、より広範な外国投資を呼び込む転換点となる可能性があります。
背景 – リスクベース事業許可制度の刷新
2025年6月に公布された政府規則第28号/2025(Government Regulation No. 28 of 2025 on the Implementation of Risk-Based Business Licensing)に基づき、インドネシア政府は事業許可制度(OSS)全体を「リスクベース」に再編しました。
これは、従来の業種別・形式的な許可制を改め、事業のリスク水準に応じて手続を簡素化することで、投資誘致を加速させる狙いがあります。
BKPM規則第5号/2025は、その実施細則として策定されたもので、全400条(長い!)にわたって投資許可、税制優遇、業種別要件、外国資本比率などを包括的に規定しています。
中でも今回の資本金要件の見直しは、外国企業にとって最も実務的な影響を与える改正項目であり、特に中小規模の投資家層にとって参入ハードルを一気に下げる内容です。
また、政府としては、国内中小企業の保護と外国資本流入のバランスを取りつつ、国内雇用創出を促進するという政策的意図も読み取れます。
今回の緩和は単なる数字上の緩和ではなく、より持続可能な投資構造の形成を目指した制度的改革の一環と考えることができます。
改正の核心:資本金要件の大幅引下げ
BKPM規則第5号/2025の第26条(Pasal 26)は、外国直接投資会社(PT PMA)の最低資本金および最低投資額を次のように定めています。
Pasal 26 ayat (10)
“Ketentuan minimum permodalan bagi PMA sebagaimana dimaksud pada ayat (9) merupakan modal ditempatkan/disetor paling sedikit Rp2.500.000.000,00 (dua miliar lima ratus juta Rupiah) per perseroan terbatas, kecuali ditentukan lain berdasarkan ketentuan peraturan perundang-undangan.”(外国投資会社(株式会社形態:PT PMA)の発行済および払込資本金の最低額は25億ルピアとする。但し、他の法令に別段の定めがある場合を除く。)
Pasal 26 ayat (2)
“Nilai investasi paling sedikit sebesar Rp 10.000.000.000,00 (sepuluh miliar rupiah) di luar tanah dan bangunan untuk setiap kode KBLI 5 digit pada setiap lokasi proyek.”(各事業分類コード(KBLI)5桁ごと、かつ各プロジェクト所在地ごとに、土地・建物を除いた最低投資額は100億ルピアとする。)
このように、最低払込資本金と最低投資額は別の概念として定められています。
払込資本金は会社設立時の財務的信用を担保するための要件であり、最低投資額は外国投資として認定されるための総事業規模の基準です。
したがって、PT PMAとして登録するためには、資本金25億ルピア以上かつ総投資額100億ルピア以上という二重の基準を満たす必要があります。
この条文は、2021年以降適用されていたものと比較すると、最低払込資本金と総投資額の要件を明確に区別し、外国投資の実務における柔軟性を高めたものです。
資本金と総投資額の関係
念のため最低資本金と最低払込資本金について簡単に補足します。
資本金は、株主が会社設立時に実際に拠出すべき「自己資本」を指します。
一方、最低投資額は、設備投資や運転資金などを含む「総事業投資額」を意味します。
つまり、資本金は100億ルピアの投資計画の一部を構成するものであり、残りは融資や追加投資などで補うことが可能であり、会社設立時に必要、ということではありません。
この二層構造により、BKPMは事業の規模と財務的健全性の双方の確保を求める形にしています。
日系企業への影響
インドネシアへの進出を希望する日系企業には大きなプラスの影響があるのでは、と見込まれます。
私の注力領域である再エネ・ESGも絡めて説明します。
新規進出コストの大幅圧縮と柔軟な市場テストの可能性
これまで外資系企業設立時に必要だった最低払込資本金(約9,180万円、為替レートは2025年10月10日時点。)が、約2,295万円に引き下げられたことにより、日系企業にとって参入コストが大幅に軽減されました。
特に、製造・物流・サービスなど中規模事業でインドネシア市場の可能性をテストしたい企業にとっては、「とりあえず一度現地法人を作ってみる」という選択が可能なレベルになったように思われます。
資本政策・グループ構成の自由度向上
新しい枠組みの下では、ジョイントベンチャーやホールディング会社の設計にも柔軟性が生まれます。
資本金要件が下がることで、段階的な出資・追加投資がしやすくなり、グループ全体の財務戦略に基づいた投資計画が立てやすくなります。
また、少数株主による戦略的参入や、パートナー企業との協働スキームを設計する余地も広がります。
再エネ・ESG分野での実務的効果
再エネ分野では、設備が必要なビジネスでは初期投資が大きいため資本金要件の影響はほぼないように思われますが、コンサルティングやアドバイザリーなど初期投資の小さい業種についてはかなり良い影響があるのでは、と見込まれます。
こうした業種では、法人設立コストの軽減が参入の後押しとなり、現地での事業展開を検討する企業の裾野が広がると考えられます。
特に、マレーシアやシンガポールを拠点にしていた日系企業が、インドネシアを次の拠点候補として検討する動きが強まると見られます。
国際比較 – ASEAN内の位置付け
今回の改正により、インドネシアの資本金要件はASEAN主要国の中で「中庸」に位置することとなりました。
マレーシアではRM1(約35円)でも会社設立が可能であり、外資参入の自由度は極めて高い一方で、現地パートナーや銀行要件により実質的な運用には一定の制限があります。
タイやフィリピンでは、特定業種に対する外資比率規制が依然として厳しく、形式的な自由度と実務上の制約に差があります。
これに対してインドネシアは、一定の実体的資本を求めつつも、形式的障壁を下げる方向に舵を切ったといっていいのではないかと思われます。
インドネシアは「外資に開かれた新興大国」としてのブランドを再確立しようと試みているように感じます。
まとめ
BKPM規則第5号/2025により、外国投資会社(PT PMA)の最低払込資本金は100億ルピア(約9,180万円)から25億ルピア(約2,295万円)へと大幅に引き下げられました。
この変更は単なる数字の緩和にとどまらず、インドネシアの投資政策そのものの方向転換を意味していると考えていいと思います。
今後の政府方針として、外資導入と国内中小企業支援の両立を図る制度整備がさらに進むことが予想されます。
日系企業にとっては、リスクを抑えながら現地法人を設立し、市場動向を見極めることが可能となり、ASEAN地域戦略の中でインドネシアの位置づけが一層高まると考えられます。
特に、設備投資が少ないコンサルティングなどの事業や、デジタルサービスなど成長分野では、本改正が新規参入の呼び水となることはまず間違いないです。
制度運用の安定化や税務面のフォローアップも視野に入れつつ、今後の実務展開が期待されます。
私も事業頑張ってインドネシア法人設立目指したいと思います。

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