再エネ賦課金見直し論の法的検証 – FIT価格変更は可能か、財源欠損はどう埋めるのか

✅ ざっくり言うと

📌 政治発言と法的実態にギャップあり — 高市首相・赤澤経産相の「賦課金見直し」発言、しかし法制度上の実現可能性は限定的
⚖️ 既認定FIT価格の遡及変更は違憲リスク大 — 再エネ特措法に変更条項はあるが、財産権侵害・信頼保護違反の可能性
💰 賦課金軽減と財源欠損のジレンマ — FIT価格を維持したまま賦課金だけ下げると、年間数兆円の財源不足が発生
🎯 実現可能性が高いのは新規案件の締め付け — 未稼働案件の取消強化、認定基準の厳格化、支援対象の重点化

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目次

はじめに

今回は、高市首相と赤澤経済産業大臣による「再エネ賦課金見直し」発言を受けて、法的視点から「何ができて、何ができないのか」を整理していきます。

2025年11月、高市首相は衆院本会議で「再生可能エネルギー賦課金のあり方について、今後の技術の進展や、その必要性について検証する」と発言しました(Solar Journal、2025年11月20日)。
赤澤経産大臣も「支援対象の見直しや集中投資の検証」を表明しています。

しかし、政治的なレトリックと法制度の実態には大きなギャップがあると考えられます。
本記事では、弁護士として再エネ法務に携わる立場から、
①賦課金単価の変更可能性
②既認定FIT価格の変更可能性
③財源欠損問題
④認定案件削減による賦課金抑制
という4つの論点を法的に検証していきます。

前提知識:FIT制度と賦課金の基本構造

FIT制度の仕組み

FIT制度(固定価格買取制度)は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」(以下「再エネ特措法」)に基づき、2012年7月に開始された制度です。

制度の核心的特徴は、認定時に決定された調達価格(FIT価格)が、原則として契約期間中(通常20年間)固定されるという点にあります。
これは事業者の経営予見可能性を確保し、金融機関からの融資実行を可能にするための制度設計であると考えられます。

賦課金の算定メカニズム

再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下「再エネ賦課金」)は、電力会社が再エネ電力を買い取る際の費用を、国民の電気料金に上乗せして徴収する負担金です。

算定式は以下の通りです

賦課金単価 = (買取費用 - 回避可能費用 + 事務費) ÷ 予想販売電力量

2025年度の賦課金単価は3.98円/kWhと決定されました(経済産業省、2025年3月21日)。
これは制度開始以来の最高値であり、一般家庭(月400kWh使用)で年間約19,100円の負担となります。

重要なポイントは、賦課金単価は買取費用総額に連動する従属的な関係にあるということです。
つまり、買取費用が変わらなければ、賦課金単価も本質的には変えられない構造になっていると考えられます。

第一の論点:賦課金単価の直接引き下げは可能か?

法的枠組み

再エネ特措法において、賦課金単価は「当該年度の開始前に、再エネ特措法で定められた算定方法に則り、経済産業大臣が設定」することとされています(経済産業省、2025年3月21日)。

単価変更の限界

前述の算定式から明らかなように、賦課金単価を下げるには、以下のいずれかが必要です。

買取費用の削減 — FIT価格を下げる、または買取量を減らす
回避可能費用の増加 — 卸電力市場価格の上昇(政策的にコントロール不可能)
販売電力量の増加 — 電力消費の拡大(需要喚起は困難)

買取費用総額が変わらない限り、賦課金「単価」だけを恣意的に下げることは、制度上極めて困難であると考えられます。
政治的に「賦課金を下げる」と言っても、法的・数学的には買取費用の削減という実質的措置が伴わなければ実現不可能です。

第二の論点:既認定FIT価格の遡及的変更は可能か?

原則論:認定時価格の固定性

FIT制度の信頼性の根幹は、一度認定を受けた案件について原則として買取価格を変更しないという大原則にあります。

この原則は単なる政策的配慮ではなく、憲法第29条が保障する財産権の保護および信頼保護の原則という法的基盤に根ざしていると考えられます。
既認定案件の事業者は、認定時のFIT価格を前提に事業計画を策定し、金融機関から融資を受け、設備投資を実行しています。

例外的変更規定の存在:再エネ特措法第3条第11項

実は、再エネ特措法には既認定案件の調達価格を事後的に改定できる規定が存在します

再エネ特措法第3条第11項は以下のように規定しています。

「経済産業大臣は、物価その他の経済事情に著しい変動が生じ、又は生ずるおそれがある場合において、特に必要があると認めるときは、調達価格及び調達期間を改定することができる。」

この条文の存在は、有価証券報告書等でリスク事項として開示されています(いちごグリーンインフラ投資法人、2023年9月28日、78ページ)。

第11項の実質的適用可能性

しかし、この規定には極めて高い適用要件が設定されています。

適用要件の厳格性

  1. 「物価その他の経済事情に著しい変動」 — 経済産業省資源エネルギー庁の説明によれば、「急激なインフレーションやデフレーション、スタグフレーションのような例外的な事態」を想定しているとされます
  2. 「特に必要があると認めるとき」 — 単なる「国民負担軽減」程度の理由では要件を満たさないと考えられます

実務上の見解:有価証券報告書では「かかる調達価格及び調達期間の変更が実施される可能性は相当程度限定的と考えています」と評価されています(いちごグリーンインフラ投資法人、2023年9月28日、80ページ)。

変更認定申請に伴う価格変更

第11項とは別に、事業者自身の行為に起因してFIT価格が変更される場合があります。
以下の変更認定申請が必要な場合、その時点の(通常は低い)FIT価格が適用されます(なっとく!再生可能エネルギー)。

  • 太陽電池の合計出力が3kW以上、または3%以上増加した場合
  • 合計出力が20%以上減少した場合
  • 接続契約を再締結する必要が生じた場合

これらは「制度側からの一方的変更」ではなく、「事業者自身の選択による新規認定」という位置付けです。

法的リスク:第11項を発動した場合

仮に政府が第11項を発動して既認定案件のFIT価格を遡及的に引き下げる措置を講じた場合、以下の法的リスクが生じると考えられます。

① 財産権侵害(憲法29条違反)のリスク
認定時のFIT価格は、事業者にとって財産的価値を有する法的地位です。
「物価その他の経済事情に著しい変動」という要件を満たさない状況下で価格を引き下げることは、正当な補償なき財産権の侵害となりうると考えられます。

② 信頼保護原則違反のリスク
行政法の一般原則として、行政が一度与えた法的地位を事後的に不利益変更する場合、重大な公益上の必要性と、事業者の信頼との比較衡量が求められます。
「急激なインフレーション等の例外的事態」が現実化していない状況では、既に巨額の投資を実行した事業者の信頼を覆す正当性を欠くと考えられます。

③ 要件該当性の立証責任
「物価その他の経済事情に著しい変動」という要件は極めて抽象的であり、その該当性について訴訟で争われた場合、国側に立証責任が課せられると考えられます。

結論
再エネ特措法第3条第11項という法的根拠は存在するものの、その発動要件は極めて厳格であり、実行すれば違憲訴訟を招くリスクが高いと考えられます。
実現可能性は極めて低いと評価せざるを得ません。

第三の論点:賦課金軽減と財源欠損のジレンマ

ジレンマの構造

ここで核心的な問題が浮上します。

  • FIT価格を変更しない → 買取費用は変わらない → 賦課金も減らない
  • 賦課金を減らす → 買取費用との差額が発生 → どこかで穴埋めが必要

2025年度の買取費用は約4兆8,540億円です(経済産業省、2025年3月21日)。仮に賦課金単価を1円/kWh引き下げると、年間約7,700億円の財源不足が生じる計算になります。

財源確保の選択肢

選択肢① 一般会計からの補填
最も直接的な方法ですが、財務省が最も嫌がるシナリオです。
再エネ賦課金の大きなメリットは、一般会計外(オフバランス)で徴収できるという点にあります。
これを一般会計に組み入れると、国債発行残高や財政赤字の数字に直接影響するため、政治的ハードルは極めて高いと考えられます。

選択肢② 新たな基金の創設
政府は「エネルギー・気候基金」などの新たな財源スキームの模索を始めていると報じられています(Solar Journal、2025年11月20日)。
しかし、これは結局「名前を変えた国民負担」に過ぎず、本質的な負担軽減にはならないという批判があると思われます。

選択肢③ 電力会社への負担転嫁
送配電コストへの上乗せという形で、電力会社(最終的には需要家)に負担を求める方法も理論的には考えられます。
ただし、これも結局は電気料金の値上げという形で需要家負担となるため、「賦課金軽減」という政治的アピールと矛盾すると考えられます。

結論
賦課金軽減と財源確保は、法的・財政的に両立困難なトレードオフの関係にあると考えられます。
どの選択肢も政治的ハードルが高く、実現可能性は低いと評価されます。

第四の論点:認定案件の「削減」による賦課金抑制

発想の転換:案件を減らす

既認定FIT価格の変更が法的・政治的に困難であれば、認定案件自体を削減することで、将来的な買取費用の増加を抑制するという方向性が考えられます。

この手法の法的メリットは、既得権化した認定案件には直接手を付けず、新規案件や未稼働案件を対象とするため、第11項発動に伴う違憲リスクを回避しやすい点にあります。

法的手段

① 運転開始期限の厳格執行
2022年4月施行の認定失効制度により、FIT認定から一定期間(太陽光は原則3年)内に運転開始しない案件は認定が失効します(なっとく!再生可能エネルギー)。

この制度の厳格執行により、2024年度には約4.2GWの未稼働案件が失効したと報じられています(PVeyeWEB)。
今後、猶予期間の短縮や例外規定の厳格化により、さらなる失効促進が考えられます。

法的課題
運転開始が遅延している理由が、系統接続の遅れや許認可の遅延など、事業者の責めに帰さない事由である場合、失効処分の適法性が争われる可能性があると考えられます。

② 新規認定基準の厳格化
赤澤経産大臣の発言にある「地域共生が図られた導入への支援に重点化」という方針は、新規認定における地域共生要件の厳格化を意味すると解されます。

具体的には、以下のような要件強化が考えられます。

  • 地域住民との合意形成の書面化義務
  • 環境アセスメント対象の拡大
  • 景観条例や自然公園法との整合性審査の強化

法的課題
要件が過度に厳格化されると、新規参入の事実上の阻害となり、再エネ導入促進というFIT制度本来の目的と矛盾する可能性があると考えられます。

③ 支援対象の重点化
赤澤経産大臣は「従来型の太陽光発電のコスト低減の状況なども踏まえつつ、その支援のあり方を検討し、次世代型太陽電池のペロブスカイトや、屋根設置などの地域共生が図られた導入への支援に重点化する」と述べています(Solar Journal、2025年11月20日)。

これは、既に経済的に自立しつつある従来型太陽光への新規FIT適用を制限し、次世代技術への支援にシフトするという政策転換を意味すると考えられます。

法的観点
この方向性は、FIT制度の本来目的である「再エネの経済的自立の促進」と整合的であり、法的正当性が高いと評価されます。

実際の動き

2025年度のFIT制度改正では、10kW以上の屋根設置型太陽光発電の買取価格が優遇される一方、地上設置型は実質的に冷遇される構造になっていると考えられます(経済産業省、2025年3月21日)。

これは「支援対象の重点化」という政策方針の具体化であると解されます。

結論
認定案件削減による賦課金抑制は、法的に最も実現可能性が高い手法であると考えられます。
ただし、既認定案件への適用には限界があり、効果が現れるまでには中長期的な時間が必要です。

法的実現可能性のマトリクス

ここまでの分析を整理すると、以下のようなマトリクスで表現できると考えられます。

施策法的可能性政治的ハードル実現可能性効果発現時期
賦課金単価の直接引き下げ× 困難(算定式の構造的制約)極めて低
第11項に基づく価格改定△ 法的根拠あるが要件厳格極めて高極めて低即時
一般会計からの補填○ 可能極めて高即時
新規認定の厳格化○ 可能中長期
未稼働案件の取消強化○ 可能極めて高短中期
支援対象の重点化○ 可能中長期

弁護士としての視点:今後の展望

政治的レトリックと法的実態の乖離

今回の高市首相・赤澤経産相の「賦課金見直し」発言は、政治的なアピールとしては理解できるものの、法的実現可能性という観点からは極めて限定的であると考えられます。

「賦課金を下げる」という言葉は国民受けが良いですが、その実現には以下のいずれかが必要です。

  • 第11項の発動(要件該当性と違憲リスクの問題)
  • 一般会計からの巨額補填(財政規律上困難)
  • 新規案件の大幅削減(効果発現まで時間がかかる)

事業者が注視すべきポイント

再エネ事業者として、今後注視すべきポイントは以下の通りと考えられます。

① 変更認定申請のリスク管理
出力変更や接続契約の再締結を伴う変更は、変更認定申請が必要となり、新しい(低い)FIT価格が適用されるリスクがあります。設備変更の計画は慎重な検討が必要です。

② 運転開始期限の遵守
未稼働案件については、運転開始期限の厳格な管理が必須です。系統接続や許認可の遅延リスクを早期に把握し、必要に応じて経産省への相談や猶予申請を検討すべきと考えられます。

③ 地域共生要件への対応
新規案件では、地域住民との合意形成プロセスの書面化、環境配慮計画の充実など、地域共生要件への対応が今後ますます重要になると考えられます。

④ 次世代技術への注目
政策的に支援が重点化されるペロブスカイト太陽電池洋上風力などの次世代技術への投資機会についても、情報収集を継続すべきと考えられます。

⑤ 第11項発動リスクの監視
理論的には第11項による価格改定の可能性はゼロではありません。ただし、現状の経済情勢が「急激なインフレーション等の例外的事態」に該当するかは疑問であり、実務的には「相当程度限定的」と評価されています。

今後予想されるシナリオ

再エネ法務に携わる立場から、今後のシナリオを以下のように予想しています。

短期的(1~2年)

  • 「見直し」の実態は新規案件への締め付け強化が中心
  • 未稼働案件の認定失効が加速
  • 地域共生要件の厳格化により、新規認定のハードルが上昇
  • 第11項発動の可能性は極めて低い

中期的(3~5年)

  • 従来型太陽光から次世代技術への支援シフトが本格化
  • 洋上風力などの大規模再エネへの支援強化(ただし賦課金負担は一時的に増加)
  • FIP制度への移行促進により、FIT案件の新規受付が段階的に縮小

長期的(5~10年)

  • 卒FIT案件の増加により、買取費用総額が漸減
  • 再エネの経済的自立が進み、賦課金制度自体が段階的に縮小
  • カーボンプライシング(炭素税・排出量取引)など、新たな財源スキームへの移行

既認定案件については、基本的に保護される見込みと考えています。第11項の発動要件は極めて厳格であり、違憲リスクを冒してまで価格改定を行う政治的メリットは小さく、法的安定性の観点からも現実的ではないと思われます。

ただし、変更認定申請や運転開始期限違反など、事業者側の事由による価格変更リスクには十分な注意が必要です。

まとめ

本記事では、高市首相・赤澤経産相による「再エネ賦課金見直し」発言を受けて、法的視点から4つの論点を検証してきました。

主要な結論は以下の通りです。

  1. 賦課金単価の直接引き下げは、算定式の構造上困難である
  2. 既認定FIT価格の改定規定は存在する(再エネ特措法第3条第11項)が、発動要件は極めて厳格であり、実行には違憲リスクが伴う
  3. 賦課金軽減と財源確保は両立困難なジレンマ関係にある
  4. 実現可能性が高いのは、新規・既存案件の厳格化と未稼働案件の取消強化である

政治的な「賦課金見直し」の声は今後も続くと予想されますが、法的実態としては、既認定案件は基本的に保護され、新規・既存案件への締め付けが強化されるというシナリオが最も現実的であると考えられます。

再エネ事業者としては、変更認定申請のリスク管理、運転開始期限の遵守、地域共生要件への対応など、制度変更に機敏に対応できる体制構築が重要になると考えています。

今後も制度動向を注視し、必要に応じて法的アドバイスを提供していきたいと思います。

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