✅ ざっくり言うと
・ESGは法務・財務・広報が一体となって取り組むべき経営課題であり、部門横断の体制づくりが不可欠
・EUや日本の最新法令・ガイドラインが、開示・契約・ガバナンスの実効性を企業に強く求めている
・ESGは単なるコストではなく、企業価値を押し上げる投資へと位置づけが変わりつつある
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ESGは誰の仕事なのか
今回は、若干広めのトピックとしてESGについて、特にESGの社内の担当者について考えてみます。
ESG(環境・社会・ガバナンス)対応は、現在の風潮を考えると企業にとって喫緊の経営課題と考えられます。
近年、特に上場企業においては、統合報告書やサステナビリティ報告書が一般化し、「ESG=IR・広報部門の仕事」と誤解される場面もあります。
しかし実際には法務部門や財務部門こそが中核的に関わるべき領域だと考えています。
以下、最新の国際・国内動向を踏まえながら、法務・財務が果たす役割と全社的な取組みの重要性を掘り下げてみたいと思います。
法務部門の役割 – ガバナンスとコンプライアンスの要
法務部門は、ESG対応の基盤を支える中枢です。
規制の複雑化、株主や投資家からの説明責任、国内外での訴訟リスクの高まりなど、近年の企業環境はかつてない速さで変化しています。
法務部門は、単に契約を審査する役割にとどまらず、経営戦略の初期段階から法的視点でリスクを見極め、持続可能なビジネスモデルを後押しすることが求められています。
以下、その中心的な役割を具体的に確認していきます。
グリーンウォッシング対応と広告表現の法的整理
グリーンウォッシングとは、実態以上に自社の環境対応を強調して表示・発信する行為です。
EUではグリーンクレーム指令案が提案され、2024年には消費者をグリーン移行へと後押しする改正(Directive (EU) 2024/825)が採択されました。
これにより、不当表示規制が一段と強化されており、企業はこれまで以上に広告表現の裏付けを求められます。
日本でも環境省の「環境表示ガイドライン」が改訂され、合理的根拠や客観性を欠いた表示はリスクとなります。
広告や広報表現の妥当性を事前に精査するのは、法務部門の重要な仕事です。
人権デューデリジェンスと契約管理
サプライチェーンにおける人権尊重は、もはや企業の選択ではなく必須要件です。
一時期かなり話題になりましたのでご存知の方も多いかと思いますが、EUでは企業持続可能性デューデリジェンス指令(CS3D)が2024年に正式公表され、取引先の人権・環境リスクを把握・是正する義務が課されます。
日本でも経済産業省・外務省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表し、契約書に人権条項や違反時の解除権を盛り込むことを推奨しています。
法務部門はこれらを踏まえ、契約や調達方針を早急に見直す必要があります。
取締役の善管注意義務とESG経営
取締役は会社法第330条、民法第644条準用に基づく善管注意義務を負っています。
気候変動や人権侵害などのESGリスクを認識しながら対応を怠れば、株主代表訴訟などで責任を問われる可能性があります。
実際、英連邦諸国では「気候リスクを無視した経営判断」に対する取締役責任を問う事例が増えています(CCLI:Directors’ Duties Navigator 2024)。
もっとも、日本においては現時点ではESGリスクが善管注意義務との関係で直ちに法的責任を問われる事例は多くなく、訴訟が現実化するまでには一定のハードルがあるのが実情です。
それでも、将来の規制強化や投資家・社会からの要請の高まりを見据え、取締役が早めに対応体制を整えることは重要だと考えています。
財務部門の役割:ESGを価値創出の投資に
財務部門は、ESGを単なるコストではなく企業価値を高める投資へと変える要の存在です。
グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンなど新しい金融商品が次々登場する中、資金調達から投資家との対話まで多岐にわたる役割を担います。
ここでは、非財務情報開示やサステナブルファイナンス、ESG投資家対応など、企業が持続可能な成長を実現するために財務部門が果たすべき具体的な役割を詳しく見ていきます。
非財務情報開示と統合報告書対応
2023年以降、有価証券報告書にサステナビリティ情報を開示することが義務化され、2024年には金融庁が対象範囲を広げました(参考:FSA英語ページ:Weekly Review No.524)。
国際的にもISSB基準(IFRS S1・S2)が浸透し(IFRS財団:IFRS S1/S2公表リリース)、気候関連財務情報の国際標準化が進んでいます。
これに対応するためには、ESGデータの収集・分析・説明責任を明確化し、財務部門が主導して体制を整える必要があります。
サステナブルファイナンスと資本調達戦略
グリーンボンド、サステナビリティ・リンク・ローン、トランジションボンドなど、ESGを前提としたファイナンス手法が広がっています。
資金使途や定量的KPIの設定、外部レビュー、報告義務などが求められ、財務部門には実質・形式両面の確かな対応が欠かせません。
日本の実務では環境省「グリーンボンド/サステナビリティ・リンク・ボンド ガイドライン」が参考になります(MOE特設サイト:Green Finance Portal)。
ESG投資家との対話におけるCFOの役割
ESG投資家は短期利益よりも中長期のリスクマネジメントや持続可能性に注目しています。
財務部門はIRと協働しながら、資本コストやリスクマネジメント戦略を専門的に説明する場面が増えています。
「CFOがESGの顔になる」という流れは、もはや例外ではありません。
広報・IR部門との役割分担と連携
広報やIR部門はESG発信の最前線に立ち、社外とのコミュニケーションを一手に担います。
社内で築き上げた取り組みや成果を社会に分かりやすく届けることが、ESG経営の価値を高める第一歩となります。
単にプレスリリースや報告書を作成するだけでなく、メディアや投資家、地域社会、顧客、従業員など幅広いステークホルダーに対し、企業の姿勢や進捗をストーリーとして伝える役割が欠かせません。
加えて、広報やIRは社外の声を経営にフィードバックする重要な窓口でもあります。
市場や投資家からの評価、消費者や地域社会の期待を経営に伝えることで、次の施策に反映させる循環を生み出します。
SNSやオウンドメディア、イベントなど多様な発信チャネルを使い分け、ESGの取り組みをタイムリーかつ継続的に知らせることは、ブランド価値や企業の信頼性を高める効果があります。
一方で、広報・IRが単独で全てを賄うことはできません。
実際の実行主体は法務や財務などの専門部門であり、彼らのリスク管理や数値管理がきちんと機能して初めて、企業のESGストーリーは説得力と持続性を持つものとなります。
広報と法務・財務が互いに補完し合い、社内の取り組みと社外発信を一体的に進めることが、今後ますます重要になります。
まとめ
ESGは広報やIRだけに任せるものではありません。
法務はリスクの視点、財務は資本や評価の視点から自分ごととして取り組む必要があります。
企業全体に横串を通す「共通言語」としてのESGを実現するには、社内ESG推進委員会などのガバナンス体制に各部門が主体的に関与することが鍵となります。
さらに、最新法規制(EU CS3D、グリーンクレーム関連、国内の環境表示ガイドラインなど)の継続的モニタリングや財務部門主導の非財務情報開示体制の確立など、法務・財務・IR三位一体によるESGガバナンス体制を着実に進めることで、ESGは単なるコストではなく企業価値を高める投資へと転換できます。

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