Tesla FSDはなぜ韓国で使えて、日本ではまだ使えないのか – 「社会実装力」から考える

✅ ざっくり言うと

  • 🚗 韓国では対象車両向けにTeslaのFSD(Supervised)が提供されていますが、日本では市街地の同機能は未展開です。
  • 👀 FSDという名称でも、運転者が常時監視する運転支援であり、居眠りや脇見が許される「完全自動運転」ではありません。
  • ⚖️ 提供時期の差を日本の規制だけで説明することはできません。車両の仕様、現地への適合、企業の展開判断なども検討が必要です。
  • 🌱 新技術を安全に社会へ届けるには、導入の慎重さと、導入を待つことのコストの双方を見る必要があると考えています。
目次

はじめに

今回は、Teslaの運転支援機能であるFSD(Supervised)の日韓での提供状況を手がかりに、新しい技術を社会で使えるようにする力について説明していきます。

先日、Teslaで東京から実家のある松本方面へ車を走らせました。
高速道路で現在の運転支援機能(これが標準搭載されており、信じられないくらい便利です)を使うと、長距離運転の負担がかなり軽くなると感じます。
その一方、操作が単調になると眠気も意識します。
人間の集中力には限界があること、そして便利な機能ほど過信を避けなければならないことを、同じ道中で感じました。

以前、ソウルと東京への海外外食ブランドの進出を比較した記事を書きました。ソウルではテスラもかなり多く走っていました。
そこで考えたのは、海外で生まれた商品が優れているだけでは市場に届かず、現地に持ち込み、利用できる形にする担い手が必要だということです。
今回の問いは、その延長にあります。
ただし、飲食店の進出と、安全が直接問われる運転支援機能の提供を同じ仕組みで説明するつもりはありません。

そこで気になったのが、Full Self-Driving(Supervised。以下「FSD(Supervised)」)です。
韓国では利用できるのに、日本では同じ機能をまだ使えないと知ると、「日本の制度が遅いからだ」と考えたくなる方も多いのではないかと思います。
ただ、資料を確認すると、その一言で片づけるのは難しいと思われます。

韓国で使えるもの、日本で使えないもの

韓国の提供対象は車両によって異なる

Teslaの韓国向け案内は、FSD(Supervised)の提供地域に韓国を含めています。
ナビゲーションに沿った走行や交差点への対応など、従来の高速道路中心の運転支援より広い場面を想定する機能ですが、Tesla自身が、掲載する米国のデモ動画にある機能の一部は韓国で使えない可能性があると断っています。
したがって、「韓国では米国と全く同じ機能が動く」とは言えません。

韓国向けの月額利用案内も、対応する車載コンピューターなどの条件を示し、利用可能な機能は車両構成、ソフトウェア、地域、車種や年式などで変わるとしています。
「韓国のTeslaならすべて使える」という意味ではありません。
同じ案内は、現時点で有効な機能によって車両が自動運転車になるわけではなく、運転者が注意を払い、いつでも自ら運転できる状態でいる必要があると説明しています。

日本では購入できるオプションと実際に使える機能を分けて見る

一方、Teslaジャパンの利用規約は、FSDパッケージの一部である市内のオートステアリング、すなわちFSD(Supervised)は日本では展開されていないと明記しています。
日本で「Full Self-Drivingケイパビリティ」というオプションの表示を見かけても、韓国で提供されている市街地の運転支援を直ちに利用できるという意味ではありません。

これは「日本には運転支援がない」という話でもありません。
私が長距離運転で使った機能と、今回比較しているFSD(Supervised)は、提供範囲を分けて考える必要があります。
また、この記事を書いている時点の公開情報に基づく比較であり、ソフトウェアの提供状況は今後変わり得ます。

「完全自動運転」の許可問題として扱わない

この話題でまず気をつけたいのは、名称から受ける印象です。
FSD(Supervised)は、運転者が継続して監視することを前提にした高度な運転支援です。
運転の安全確保を運転者が担うレベル2と、一定の条件下でシステムが運転を担うレベル3は、国土交通省の自動運転レベルに関する整理でも区別されています。
今回の比較を、運転者が監視しなくてよい自動運転の解禁・未解禁という構図に置き換えると、議論の出発点を誤ります。

むしろ私自身の運転経験からは、支援が高度になるほど「何を車に任せられ、何は自分が見続けなければならないか」を明確にすることが重要だと感じます。
国土交通省も運転支援の過信について注意を呼びかけています。
利便性や将来の安全性への期待と、現時点で運転者に残る責任は、同時に語るべきものだと考えています。

なぜ日韓で提供時期が違うのか

規制は関係するが、それだけを原因とは言えない

Teslaジャパンの利用規約には、FSDの利用可否や範囲が国・地域ごとの規制に左右されるとの記載があります。
ただし、ここから直ちに「日本の特定の法律が韓国版FSDを禁止している」「日本の当局が申請を拒否した」とは言えません。
私が確認した公開資料だけでは、日本での申請内容、審査の進捗、未展開の決定的な理由までは特定できませんでした。

制度面で確認したいのは、車両とソフトウェアの仕様が日本の安全基準や交通ルールとどう整合するか、運転者への警告や機能の制限をどう設計するか、といった点です。
事故時の説明可能性や運転データの取り扱いも、実務上は検討課題になり得ます。
しかし、それらのどれかが現在の未展開の「原因」であると示す資料を確認しないまま、因果関係を断定すべきではないと考えています。

ここでは「制度上提供できない」のか、「条件を満たせば提供できるが、まだその確認が終わっていない」のか、さらに「制度上は可能でも企業が提供を決めていない」のかを分ける必要があります。
それぞれ必要な証拠が違うからです。
例えば、具体的な法令上の障害を示すには、対象機能の仕様と適用される基準の対応関係を確認しなければなりません。
審査が遅れているというなら、申請や審査の事実と経過が必要です。
規制という言葉だけでこれらをまとめると、何を変えれば導入できるのかも見えなくなります。

企業がいつ、どの製品を投入するかも別の変数

韓国向けの利用案内が示すように、提供には車載ハードウェア、ソフトウェア、地域ごとの機能設定が関わります。
日本での交通環境への適合、検証に使える体制、製品としてどの段階で提供するかというTesla側の判断も、検討すべき変数だと思われます。
ただし、Teslaが韓国を日本より優先した理由や、両国の当局との協議の内容を、私は公開資料から確認できていません。

そもそも比較の単位を「国」だけにしてしまうと、車種、搭載する機器、ソフトウェア、提供する機能の範囲の違いが隠れます。
韓国で対象となる車両と、日本で販売されている車両がどこまで同じ仕様なのか。
韓国向けの機能を日本の道路環境に合わせるとき、どのような検証が必要なのか。
こうした点を確認しないまま、提供日だけを比較しても、制度の速度は測れません。

さらに、仮に制度面の準備が整っていても、企業が現地対応に人員や資金を投入する順番をどう決めるかは別問題です。
販売見込み、対応車両の数、現地での検証負担などは、事業判断に影響し得ると考えられます。
もっとも、実際にTeslaが何を重視したかを示す資料は確認できていないため、これらは理由の説明ではなく、調べるべき項目です。

既存の自動車メーカーが導入を妨げた、韓国政府が特別に便宜を図った、という説明も、裏づけなしには採用できません。
導入時期の違いは観察できますが、その原因の割合まで観察できるわけではないのです。

道路環境、データ、利用者の理解も確認したい

車線表示や交差点の形状、標識の運用などへの適合も、運転支援を現地で提供するうえでは検証対象になり得ます。
ただし、日本の道路が韓国より複雑だから未展開だという比較資料を確認したわけではありません。
これは、現地でどの場面を機能の対象にし、どの場面で運転者に確実に任せるか、という製品設計上の問いです。

走行映像や運転データを開発・不具合の検証に使う場合には、取得するデータ、保存先、第三者提供の有無、利用者への説明も確認する必要があると思います。
ここも、日韓の個人情報制度のどちらかが今回の提供差を生んだと断定する趣旨ではありません。
まず具体的なデータの流れが分からなければ、適用される法的論点も絞れないからです。

最後に、提供できることと、安全に使われることも同じではありません。
運転者が「Supervised」をどう理解し、使用条件や警告にどう接するかは、導入後の運用に関わります。
先に提供した市場で実際に何が起きたかを検証できれば有益ですが、現時点で韓国での利用実績だけから安全性を一般化することは避けたいと考えています。

「社会実装力」を何で測るか

私がここでいう社会実装力は、優れた技術を発明する能力ではなく、その技術を安全に使える条件を整え、企業と行政が必要な確認を重ね、実際の利用につなげる能力です。
ただし、韓国でこの機能が先に提供されたという一事例だけで、韓国全体の制度が日本より優れていると評価することもできません。
製品や道路環境、企業の事業判断をそろえて比較したわけではないからです。

法律実務に接していると、「規制を緩めるか、厳しくするか」という二択では、重要な問いが抜け落ちると感じることがあります。
何を確認すれば提供できるのか。
審査や実証から一般利用へ移る道筋は見えているのか。
提供後に問題が見つかった場合、機能をどう変更し、利用者へどう知らせるのか。
今回も、こうした問いを立てることの方が、国ごとの速さを競うより実務的だと考えています。

導入を急いで安全上の問題を見落とせば、その負担を負うのは利用者だけではありません。
他の道路利用者にも影響します。
他方で、安全に使える条件が整っているのに導入への道筋が見えなければ、利用者が便益を得る機会や、実際の運用から学ぶ機会を失う可能性があります。
どちらのコストも抽象論だけで比較はできません。
だからこそ、何が未確認で、誰がそれをどのように確認するのかを可視化することが大切だと思います。

まとめ

韓国では条件を満たす車両にFSD(Supervised)が提供され、日本では同機能の市街地向け提供がまだ始まっていません。
しかし、そこから「日本の規制が悪い」「韓国は技術面でも制度面でも進んでいる」と結論づけることはできません。
比較すべきなのは、実際に使える機能と利用条件、運転者に残る責任、そして提供に至る制度・企業双方の判断です。

松本方面への運転で感じたのは、運転支援の便利さと、便利さゆえの緊張感でした。
新しい技術を待つ理由にも、慎重に確かめる理由にも目を向けたいと思います。
この日韓差は、どちらかの国に点数をつける材料というより、安全性と導入の速度をどう両立するかを考えるための具体的な事例だと考えています。

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