✅ ざっくり言うと
- 📉 2026年9月1日から、一次調整力等の上限価格が15円から10円へ引き下げられ、実際に一部エリアの最高落札価格が大きく低下しました。
- 🗾 もっとも、価格の動きにはエリア差があり、一次調整力市場全体が一律に「暴落」したとはいえません。
- ⏳ 制度変更直後の短期間のデータ、とりわけ最高落札価格だけで、長期的な収益性を判断するのは早いと考えられます。
- 🔋 系統用蓄電池の事業性は、価格だけでなく、落札率、落札量、参加商品、SOC管理及びアセスメントリスク等を含めて検証する必要があります。
はじめに
今回は、2026年9月1日に実施された一次調整力等の上限価格引下げと、その直後に見られた価格低下について説明していきます。
2026年8月3日付けの記事「需給調整市場の上限価格が15円から10円へ。系統用蓄電池事業者が今見直すべきポイント」において、同年9月1日から予定されていた上限価格引下げの内容と、その背景にある制度側の考え方を整理しました。
前回の記事では、複合商品、一次調整力及び二次調整力①の上限価格が15.00円/ΔkW・30分から10.00円/ΔkW・30分へ引き下げられること、そして、上限価格付近の高値約定に依存した収益計画については見直しが必要になることを指摘しました。
その後、予定どおり9月1日実需給分から新しい上限価格が適用され、複数のエリアで最高落札価格が大きく低下したとして、一次調整力の価格が「暴落した」と評価する情報も見られるようになりました。
もっとも、上限価格が引き下げられたことと、一次調整力市場全体又は個別の蓄電池事業の収益性が直ちに崩れたことは、同じではありません。
本稿は前回の記事の続報として、制度変更後に確認された初期的な価格変化をどのように理解すべきかを整理します。
前回の記事で確認した上限価格引下げの内容
一般社団法人電力需給調整力取引所(Electric Power Reserve eXchange。以下「EPRX」といいます。)が2026年7月30日に公表した「需給調整市場のΔkW上限価格について」によれば、2026年9月1日の実需給分から、複合商品、一次調整力及び二次調整力①の上限価格は、15.00円から10.00円/ΔkW・30分へ引き下げられました。
| 商品 | 2026年8月31日まで | 2026年9月1日以降 |
|---|---|---|
| 複合商品 | 15.00円 | 10.00円 |
| 一次調整力 | 15.00円 | 10.00円 |
| 二次調整力① | 15.00円 | 10.00円 |
| 二次調整力② | 7.21円 | 7.21円 |
| 三次調整力① | 7.21円 | 7.21円 |
| 三次調整力② | 上限なし | 上限なし |
今回の引下げ率は約33%です。
EPRXの上限価格に関する説明によれば、この更新は、2026年7月14日に開催された第4回電力安定供給ワーキンググループにおける審議結果を踏まえたものです。
前回の記事では、上限価格が19.51円から15円、さらに10円へと段階的に引き下げられてきた経緯や、上限価格付近の高値約定の多くを蓄電池が占めていた背景について詳しく取り上げました。
この制度的背景については、前回の記事をご参照ください。
今回の続報で検討したいのは、引下げが妥当だったかという制度論ではなく、引下げ後に現れた価格データから何を読み取ることができるかという点です。
上限価格引下げ後に何が起きたのか
一部エリアで最高落札価格が大きく低下した
EPRXの需給調整市場の取引実績では、商品区分、対象日及び時間帯ごとに、各エリアの募集量、応札量、落札量、最高落札価格、最低落札価格及び平均落札価格等が公表されています。
制度変更前後の取引実績を見ると、一部のエリアでは、一次調整力の最高落札価格が大きく低下しています。
特に、従前の最高落札価格が10円を超えていたエリアについては、上限価格が10円へ引き下げられたことの影響が直接現れたと考えられます。
この点に限れば、「上限価格引下げ後に価格が大きく下がった」という説明は事実に沿っています。
10円を超えていた価格が10円以下になるのは制度上当然である
もっとも、従前10円を超えていた最高落札価格が、新制度下で10円以下となったこと自体は、市場環境の急変を示すものとは限りません。
EPRXの上限価格に関する説明によれば、需給調整市場システム自体は、応札価格が上限価格を超えているか否かを判定しません。
しかし、上限価格を超えた価格で約定した場合も、精算手続では上限価格を適用して料金が計算されます。
したがって、上限価格が15円から10円へ引き下げられれば、それまで10円を超えていた部分が切り下げられることは制度上予定された結果です。
この部分を「市場参加者の評価が急激に悪化した」と捉えるのは正確ではありません。
一方で、最高落札価格が10円を相当程度下回っているエリアについては、上限価格による機械的な切下げだけでは説明できません。
応札価格の変化、募集量と応札量の関係、新規リソースの参入、複合約定や広域調達の結果等が影響している可能性があります。
もっとも、制度変更直後のデータだけで、これらの要因を明確に切り分けることは困難です。
一次調整力の価格は本当に「暴落」したのか
全国一律の値動きではない
需給調整市場では、エリアごとに募集量、応札量、参加するリソース及び連系線の利用状況等が異なります。
EPRXが公表するエリア別の取引実績を見ても、制度変更後の価格の動きは一様ではありません。
価格が大きく低下したエリアがある一方で、変化が小さいエリアや、上昇する場面が見られるエリアもあります。
したがって、現時点で確認できる事実は、一部のエリアで一次調整力の最高落札価格が大きく低下したということです。
これを一次調整力市場全体の全国的な「暴落」と表現するのは、やや広すぎると考えられます。
制度変更直後のデータには限界がある
需給調整市場の価格は、募集量、応札量、電源の稼働状況、系統作業、連系線制約及び参加事業者の入札行動等によって変動します。
EPRXも、取引実績に加えて、調整力必要量や系統作業等による取引の制約を公表しています。
価格変化の理由を分析するためには、これらの情報も併せて確認する必要があります。
制度変更直後の短期間のデータには、曜日構成や一時的な需給状況による影響が含まれている可能性があります。
そのため、限られた期間の比較だけから、新しい価格水準が長期的に定着したと判断することは困難です。
上限価格が10円になった以上、今後10円を超える精算収入を一次調整力に期待できないことは明確です。
しかし、10円以下の範囲で価格がどの水準に収れんするかについては、より長い期間のデータを確認する必要があります。
「最高落札価格」は蓄電池の平均収入ではない
もう一つ注意すべきなのは、価格低下を示す指標として最高落札価格が用いられることです。
EPRXの取引実績でも、最高落札価格、最低落札価格及び平均落札価格は、それぞれ別の指標として公表されています。
最高落札価格は、市場の上限付近でどのような約定が発生したかを把握するためには有用です。
もっとも、その価格は、当該エリアで落札されたすべてのリソースの代表的な収入単価を示すものではありません。
最高落札価格の低下だけから、蓄電池の平均収入や年間収益が同じ割合で低下したと判断することはできません。
前回の記事の見通しはどう評価すべきか
前回の記事では、今回の上限価格引下げについて、蓄電池事業者にとって「稼ぎの天井」を直接引き下げる変更であると評価しました。
この評価は、実際に10円の上限価格が適用された現在も変わりません。
一次調整力で15円に近い価格が継続することを前提としていた事業計画については、収益予測の見直しが必要です。
一方で、上限価格という「天井」が約33%下がったことと、個別案件の売上又は利益が直ちに同じ割合で低下することは同じではありません。
実際の影響は、従前どの価格帯でどの程度落札していたか、一次調整力への依存度がどの程度か、他市場へ収益機会を振り替えられるかによって異なります。
したがって、現時点での整理は次のようになります。
第一に、10円を超える価格を前提とした収益計画は修正する必要があります。
第二に、制度変更直後の最高落札価格だけを根拠として、一次調整力市場又は蓄電池事業全体の収益性が崩壊したと評価するのは早いと考えられます。
第三に、今後の焦点は、10円以下の範囲で実際の平均落札価格と落札率がどの水準に落ち着くかに移っています。
蓄電池の収益性を判断するために見るべき指標
系統用蓄電池の収益性を評価するためには、最高落札価格だけでなく、少なくとも次の項目を確認する必要があります。
落札量を考慮した平均価格
最高落札価格ではなく、実際にどの価格で、どの程度の量が落札されたかを確認する必要があります。
落札量を考慮した平均的な収入単価の方が、個別事業の実態に近い指標となります。
落札率及び落札量
高い価格で応札しても、落札できなければ収入は発生しません。
単価が低下しても、落札率や落札量が増加すれば、売上への影響が一定程度緩和される可能性があります。
EPRXの取引実績では、エリア別の募集量、応札量、落札量、応札件数及び落札件数も公表されています。
エリアごとの競争環境
募集量、応札量及び参加するリソースの構成は、エリアごとに異なります。
全国一律の価格前提ではなく、案件が所在するエリアの取引実績に基づいて収益シナリオを設定する必要があります。
参加する商品とマルチマーケット運用
一次調整力、一次オフライン、二次調整力、三次調整力、卸電力市場及び容量市場等のうち、どの市場を組み合わせるかによって収益構造は変わります。
一次調整力だけの価格変化を、蓄電池事業全体の収益性と同一視することはできません。
State of Charge管理と運用制約
蓄電池には、充電状態を示すState of Charge(SOC)の管理が必要です。
調整力としての対応能力を維持するためには一定のSOCを確保する必要があり、複数の市場で同じ容量を自由に利用できるとは限りません。
EPRXは、蓄電池による市場参加について、「揚水発電設備または蓄電池設備を用いて需給調整市場に参入する場合の取扱いガイド」を公表しています。
アセスメント不適合リスク
需給調整市場では、契約どおりの応動ができたかについてアセスメントが行われます。
EPRXの「アセスメント不適合時の処分等の実施基準および公表内容」によれば、不適合が発生した場合にはペナルティ料金が発生するほか、是正勧告や取引停止等の処分が行われる可能性があります。
実際に、蓄電所の設定が周波数制御状態へ変更されておらず、指令に追従できなかった事例も公表されています。
表面的な落札価格だけでなく、運用コストや不適合リスクを考慮した実質的な利益を見る必要があります。
事業者・投資家が現時点で対応すべきこと
まず、一次調整力について10円を超える価格を見込んでいる事業計画は、EPRXが公表した新しい上限価格に合わせて修正する必要があります。
そのうえで、価格、落札率及び落札量について、エリア別に複数のシナリオを設定することが考えられます。
前回の記事で述べたとおり、10円を基本ケース、さらに低い水準をストレスケースとして感応度分析を行うことも有用です。
もっとも、制度変更直後の短期間の価格だけを、そのまま長期の基本ケースとして採用することも避ける必要があります。
今後一定期間の取引実績を蓄積し、価格だけでなく、募集量、応札量、落札量及び落札率の推移を確認したうえで、収益モデルを更新するのが適切と考えられます。
また、アグリゲーターとの運用委託契約や収益分配契約について、報酬設計、Key Performance Indicator(KPI)、収益保証等の前提が旧上限価格を引きずっていないかを確認する必要があります。
金融機関や投資家への説明においても、単一の価格指標だけを示すのではなく、エリア別・商品別の複数シナリオと、その前提条件を明示することが重要です。
まとめ
前回の記事では、2026年9月1日から一次調整力等の上限価格が15円から10円へ引き下げられることと、その制度的背景を取り上げました。
今回、実際に新しい上限価格が適用され、一部のエリアで最高落札価格が大きく低下しています。
したがって、上限価格付近の高値約定を前提とした収益計画について、見直しが必要であることは変わりません。
もっとも、価格の動きにはエリア差があり、制度変更直後の短期間における最高落札価格だけから、一次調整力市場全体が長期的な「暴落局面」に入ったと評価するのは早いと考えられます。
上限価格という天井が下がったことは確定していますが、その天井の下で平均価格、落札率及び落札量がどの水準に落ち着くかは、引き続き確認する必要があります。
蓄電池事業者、投資家及び金融機関に求められるのは、短期的な価格変化を軽視することでも、過度に悲観することでもありません。
前回の記事で整理した制度変更の方向性を踏まえながら、より長い期間のデータと案件固有の運用条件に基づいて収益モデルを更新することが重要です。

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